産業技術総合研究所は2016年12月5日、新原理のトランジスタ「トンネルFET」を用いたLSIの動作実証に成功したことを明らかにした。
産業技術総合研究所(以下、産総研)は2016年12月5日、0.2〜0.3Vという低電圧駆動が期待されている新原理のトランジスタを用いたLSIの動作実証に成功したと発表した。極めて低い消費電力のLSIが実現できるとし、インフラ監視用センサーやウェアラブルセンサー端末などへの応用が期待できるという。
開発したLSIは、トンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)を用いたもの。トンネルFETは、0.2〜0.3Vの低い電圧での駆動、高い動作周波数での動作が期待されているトンネル効果を利用した新原理のトランジスタである。
ただ、トンネルFETは、N型とP型の異なる極性のトランジスタを同一シリコン基板上に作製する「相補型回路」の形成が難しく、動的回路動作での実証は行われていなかった。今回、産総研は、相補型回路の基本単位であるインバーターを数十個集積するリング型発振回路を作成し、トンネルFETによるLSIの動作実証を実施した。
リング型発振回路は動作速度を評価できるため、集積回路の開発に必須であるとされる。しかし、リング型発振回路が正しく発振するには、相補型回路を実現して、数十個のトランジスタを集積し、全てのトランジスタを同時に動作させなければならない。産総研によると「インバーター動作は世界でもいまだに数グループのみで実現されるにとどまっており、またリング型発振回路の動作は実現されていなかった」とする。
産総研ではまず、N型とP型のトンネルFETを1個ずつ用いたインバーターを試作し、動作を確認した。インバーターは、N型トンネルFETとP型トンネルFETとが直列に配置された相補型回路であり、電圧を反転させる。試作したインバーターでは、高い入力電圧に対しては、低い出力電圧が得られ、逆に、低い入力電圧に対しては、高い出力電圧が得られ、電圧が反転され、インバーターとして動作することを確認した。
そして産総研は、N型とP型のトンネルFET(SOIプレーナ型)をそれぞれ23個ずつ、合計46個を集積した23個のインバーターをリング上に接続したリング型発振回路を作製した。
リング型発振回路は、リング上に接続されたインバーターによって電圧反転が連続的に繰り返され、奇数回反転した後に最初のインバーターに戻る。このプロセスが繰り返されて、時間とともに電圧が変動し、発振動作する仕組みだ。
作製したリング型発振回路は、時間とともに出力電圧が変化し、発振動作が観測されたという。
産総研は「発振動作は、集積した全てのトンネルFETが正しく動作してことにより実現され、トンネルFETによる相補型回路方式でのリング型発振回路の動作が初めて実証されたことを示す」とした。その上で「トンネルFETによる超低消費電力集積回路の実現に向けた大きな前進」と評価している。
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