物質・材料研究機構の石田暢之氏らの研究チームは、全固体リチウムイオン二次電池の複合正極材料において、充放電前後の電位分布変化をナノスケールで可視化することに成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)の表面物性計測グループで主任を務める石田暢之氏らの研究チームは2016年12月、全固体リチウムイオン(Li)二次電池の複合正極材料において、充放電前後の電位分布変化をナノスケールで可視化することに成功したと発表した。
固体電解質を用いた全固体Li二次電池は、高い安全性や良好なサイクル特性を有することから次世代の蓄電池として有力視されている。しかし、その電極-固体電解質界面でのイオン電導抵抗が高いことが、高出力密度の実現へ課題になっている。
イオン電導抵抗が高いことの原因は、空間電荷層で電位やリチウムイオン濃度分布がナノメートルのスケールで変化していることが考えられている。しかし、これまでに界面抵抗を計測できる事例がほとんど報告されていないという。電池内部の電位分布をナノスケールで計測できる汎用性の高い手法の開発が望まれている。
走査型プローブ顕微鏡の一種であるケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)は、ナノスケールで試料の表面電位を計測できる手法として用いられている。Li二次電池材料への応用も数件報告されているが、電極表面か単一粒子のみを測定する用途にとどまっていたとする。またKPFMなどの手法では、電池材料の一部または電池を解体して取り出した特定の材料が測定の対象となっているため、実際に動作している電池内部の電極-固体電解質界面での電位分布を計測する手法の開発が求められていた。
同研究チームは、リチウムなど反応性の高い材料を含む電池が、断面加工の工程で性能劣化しないよう、作製した電池の断面加工からKPFM計測までを不活性ガスや真空中で行う環境制御を行った。アルゴンイオンビームによる断面加工の際は、研磨片の再堆積によるデバイス劣化が生じないように試料を保護するとともに、試験サイズをイオンビームサイズより小さくして断面への再堆積を防ぐ工夫を行ったという。これにより、電池性能を損なわずに電池内部の電位分布を高い空間分解能で計測可能にした。
今回の手法を全固体Li二次電池の評価へ応用したところ、不活性雰囲気での試料の断面加工後、充電前後でKPFM計測を行うことで、充電に伴う複合正極の電位分布の変化を直接可視化することに成功。充電前のKPFM像では粒子ごとに表面電位の違いがあり、その境界が元素マッピング像の粒子の輪郭と一致した。電池充電後は、充電前と大きくコントラストが変化し、充電に伴う電位変化を可視化できたとする(下記図を参照)。
この変化は充電反応で正極材料からLiの移動が起こり、Liの濃度が減少したことによって生じたものとなる。複合正極中の固体電解質粒子は、同じ像の右端の固体電解質領域に比べて大きく電位が上昇している。複合正極中の固体電解質でも、マイクロメートルオーダーの広い領域でLi濃度が減少している可能性を示唆している。
今後、空間電荷層の評価へ同手法を応用することで、全固体Li二次電池の高抵抗の原因を明らかにできる可能性がある。電位分布はLi濃度分布や導電率分布などに相関があるため、複合電極材料中の充放電状態の不均一さやイオン伝導パスの評価が可能になる。つまり、電池劣化要因の解析などのさまざまな解析技術へ応用が期待できるとした。
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