東京工業大学の細野秀雄教授らは、有機ELディスプレイの電子注入層と輸送層に用いる透明酸化物半導体を開発した。新物質は従来の材料に比べて、同等の仕事関数と3桁以上も大きい移動度を持つ。
東京工業大学科学技術創成研究院の細野秀雄教授らは2017年1月、有機ELディスプレイの電子注入層と輸送層に用いる透明酸化物半導体を開発したと発表した。新物質はこれまで用いられてきた材料に比べて、同等の仕事関数と3桁以上大きい移動度を持つ。製造プロセスも量産性に優れ、コスト低減が可能だという。
細野教授らの研究グループはこれまで、結晶並みの電子移動度を持つ透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)の材料設計指針やその実例を示してきた。さらに、TAOSの1種であるIGZO(In-Ga-Zn-O)を活性層とするTFT(薄膜トランジスター)をプラスチック基板上に作製し、約10cm2/(V秒)の電界効果移動度が得られることを実証してきた。
最近はIGZO-TFTで駆動する大型有機ELテレビの生産も始まっている。しかし、大型有機ELテレビの本格量産に向けては、物質表面から1個の電子を取り出すのに必要な最小エネルギーである仕事関数や、固体物質中における電子の移動のしやすさを示す電子移動度のさらなる改善、改良が必要になるという。
また、有機ELディスプレイで一般的に利用されているp型シリコンTFTを、そのままn型酸化物TFTに置換する場合、陰極と陽極の上下を逆転させた構造にして接続したほうが、素子の安定性や焼き付き防止に有用であることも報告されている。
研究グループはIGZO-TFTがより安定に動作し、かつ製造コストを低減するために、電子注入層と電子輸送層に向けた2種類の新物質を、透明アモルファス酸化物で実現した。
電子注入層に用いる透明アモルファス酸化物には、仕事関数が小さくて安定していることが求められる。研究グループは今回、緻密に焼き固められた「12CaO・7Al2O3」(以下、C12A7)電子化物(エレクトライド)の多結晶体をターゲットにして、室温環境でスパッタリング法による成膜を行った。
これによって得られた無色透明の薄膜はアモルファスで、結晶C12A7電子化物と同等濃度のアニオン電子が含まれていることが分かった。紫外光電子分光法で測定したところ、仕事関数は3.0eVであり、金属リチウムやカルシウムと同程度であった。アモルファスの状態でも、仕事関数が小さいとう電子化物の特長は保持されることが明らかとなった。
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