今のところ、データがセンサーフュージョンに移行するまでに、ビジョンSoC上でどれくらいの画像処理を行う必要があるのかという点がまだ明らかになっていない。NXPのシニアバイスプレジデントであり、車載インフォテインメント/ドライバアシスタント担当ゼネラルマネジャーを兼任するTorsten Lehmann氏は、EE Timesのインタビューに対し、「自動車メーカーやティア1サプライヤーの間では現在、イメージングデータとして、ローデータに近いものを好む傾向が強くなっている。独自に組み合わせることが可能だからだ」と述べている。
しかし当面の間は、Mobileyeが2018年に発売する予定である「EyeQ5」が最も有力なチップであり、あらゆるメーカーの標的となるだろう。Wertheizer氏は、「QualcommやMediaTekなどのメーカーは、明らかにセンサーフュージョンチップ市場への参入を望んでいるが、ティア1サプライヤーや自動車メーカーも、自社専用のセンサーフュージョンチップを独自開発することに関心を持っているようだ」と指摘する。
ビジョンSoC市場も成長している。センサーフュージョンとは別に、レベル2、レベル3の自動運転車のADAS向けとして開発されている。
Yole DéveloppementのCambou氏は、「ビジョンSoC市場は現在、ADASとインフォテインメントの2つの分野に明確に分類される。MobileyeがADAS、Texas Instruments(TI)や東芝、ルネサスをはじめとするその他のほとんどの企業が、インフォテインメント向けをターゲットとしている。NVIDIAと東芝は、ADAS分野においてアップグレードを実現するという適切な方法を採用しているが、TIやルネサスは、これとは少し異なる方向に進んでいるようだ」と述べる。
一方で、「さらに多くのSoCベンダーが、自動車市場におけるビジョンSoCのシェア獲得に向け、態勢を整えている」とする、別の見方もある。
CEVAは、「理論的には、On Semiconductorなどのイメージセンサーメーカー各社が、自社開発したセンサーに付加価値を加えようとしていることになる」と見ているようだ。このため、ルネサスやTI、東芝だけでなく、Rockchipなどのビデオプロセッシングチップメーカーとの間で、衝突が起きる可能性がある。
Linley GroupのDemler氏は、「ADAS向けチップの開発をめぐる競争は、まだまだ終わりそうにない。Mobileyeは、2016年の半導体チップ出荷数量が450万個に達し、レベル2のAEBシステム開発をアピールしている。しかしこれは、2016年に販売された乗用車全体のわずか5%相当にすぎないため、業界全体と比較してみると、優位性を確立しているとは言い難い」と説明する。
Demler氏は、「Mobileyeは、Delphi Automotiveとの間で有益な関係を築いている。しかしこの他にも、独自の協業関係を構築しているサプライヤーは数多く存在する。Tesla Motorsが、いとも簡単にNVIDIAに切り替えたという事実に目を向けてほしい。ADAS分野では、NXPやQualcomm、東芝、ルネサス、TIなどのプロセッサメーカーが競争を繰り広げており、ダイナミックかつ急激な発展を遂げている市場だ」と続けた。
では、Mobileyeの対抗馬になり得るには、どのような戦略が必要になるのだろうか。イタリアのVisLabでゼネラルマネジャーを務めるAlberto Broggi氏は、「より優れたアルゴリズムと、よりオープンなシステムが鍵になる」と述べる。VisLabは、ハイエンドのビデオ圧縮および画像処理チップで知られるメーカーだ。
Vision Systems Intelligence(VSI)の設立者で主席アドバイザーを務めるPhil Magney氏は、「Mobileyeは最も優れた画像認識技術を持っている。同社のハードウェアとソフトウェアがしっかりと統合されているからだ(これは、Apple製品の動作が優れている理由と同じものだ)」と説明する。「Mobileye以外のほとんどのビジョンプロセッサは、専用のビジョンアルゴリズムがなく、サードパーティーのアルゴリズムを命令セットとして実装するのが一般的になっている」(同氏)
ただしMagney氏は、「画像処理分野においてMobileyeが覇権を失う可能性も、もちろんある。この分野ではニューラルネットワークを用いた技術の革新が進んでいるから」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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