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貼るウェアラブル実現へ、熱処理いらぬ封止技術誰でも容易に低コストで(1/2 ページ)

早稲田大学は、高分子ナノシートを利用し、熱処理を行わずに電子素子を固定する封止技術を開発した。開発した封止技術を用い皮膚に貼り付けるウェアラブルデバイスを試作し、柔軟な生体組織表面でも安定的に通電できることを確認したという。

» 2017年02月08日 12時00分 公開
[庄司智昭EE Times Japan]

期待される“貼る”ウェアラブル

 早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所は2017年2月、高分子ナノシートの柔軟性と密着性を利用し、熱処理を施さない方法で電子素子を固定、通電させる封止技術を開発したと発表した。開発した封止技術を用いたデバイスを皮膚に貼り付けたところ、柔軟な生体組織表面でも安定的に通電させることに成功したという。皮膚に貼り付けるウェアラブルデバイスの実現性が高まり、健康医療やスポーツ分野への応用が期待できる。

ナノシート状にLED点灯回路を実装し腕に貼り付けした様子。皮膚上でも配線とLEDの電気的接続は安定したという。白いテープ枠は、ナノシートの貼り付けに用いたフレームである 出典:早稲田大学

 現在普及するウェアラブルデバイスの形態は、時計やメガネ型のように“身につける”ことが一般的だ。同研究所は、薄膜形成技術の進歩とともに「皮膚などの生体組織にばんそうこうのように“貼る”時代に進展すると予想している」と語る。ばんそうこう型デバイスは皮膚に違和感なく貼れるため、健康医療分野での健康管理、見守りのための無線通信タグ、アスリートのパフォーマンス管理などへ応用できるからだ。

 皮膚に貼り付けるためにデバイス全体を薄く柔らかくするには、電子回路を構成するLEDやICチップなどの素子を、柔らかいプラスチック薄膜表面に取り付ける必要がある。しかし、はんだ付けなどの電子素子固定方法は、150〜300℃の高温処理を要するため接合部が硬化する。基材を薄くするほど、素子の安定的な固定が困難になるなのだ。

 フォトリソグラフィによる微細加工や金属蒸着で素子を直接基材上に作成する方法も考えられるが、高価なマスクや高純度の真空プロセスを必要とするため、デバイス全体の作成時間やコストの削減が実用化に向けた課題になっているとする。

従来より100倍柔らかいSBSナノシート

電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計、印刷可能という 出典:早稲田大学

 同研究所はこれまで、素材にゴム(ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体:SBS)を用いることで、従来より100倍柔らかいナノシートを開発してきた。今回ロール・ツー・ロール法を用いることで、ロール状のPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上にSBSナノシートを製膜。SBSナノシートとPETフィルムの間に水溶性のポリビニルアルコール(PVA)の層を形成し、紙テープの枠を利用してPETフィルムから容易に剥せるという。

 このSBSナノシート表面にインク吸収層をコートした後、家庭用インクジェットプリンタを用いて銀インクを印刷。印刷した配線上にLEDを載せ、別のSBSナノシートで挟み込むことでLEDを封止する。最終的に、PVA層を水で溶かすことで、「SBSナノシート-インク吸収層-印刷配線-LED-SBSナノシート」の5層構造をPETフィルムから剥離し、皮膚に貼り付ける新たな手法を開発した。

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