前編に続き、「超伝導状態(電気抵抗がゼロになる状態)を出現させる材料の研究」を例に取り、「捏造」「改竄(かいざん)」「盗用」の3つの不正行為がどんなものかを具体的に考えてみよう。
【(後編を読まれる方へのご注意)前編はこちらです。前編の内容を覚えていらっしゃるという前提で、本編(後編)は始まっています】
しかし実際には、研究がこのように順調に進むとは限らない。いやむしろ、理論的な裏付けが不十分な段階では、大失敗する確率が圧倒的に高い。超伝導状態の出現すら確認できないことも、多いに考えられる。
ここで「捏造」が関係してくる。捏造とは、一般的には事実ではないものを事実であるかのように作成することだ(参考:広辞苑)。研究不正における代表的な捏造は、実験そのものの捏造である。実験をせずに、実験結果のデータ群だけを作成してしまう。試料すら作らずに済ませる。大変便利で時間を節約できる、素晴らしい方法だと言えよう。倫理的には完全に間違っているが。
もちろん発表論文(捏造された論文)には、試料の作成方法や実験のセットアップ、実験結果のグラフ、検討結果などが掲載されている。実験結果と仮説は完全に一致する、とは限らない。本当らしさを強化するために、仮説を崩さない程度のズレ(あるいはノイズ)を実験データに加えることも考えられる。
他者が目にするのは研究開発の活動行為そのものではなく、学術論文誌や国際学会の発表内容などである。従って、捏造された論文が発表の直後に捏造と気付かれることはまず、ない。それどころか、称賛の嵐に包まれることが珍しくないのである。
次に「改竄(かいざん)」がある。改竄とは、一般的には字句や数字などを不当に改め直すことを指す(参考:広辞苑)。研究不正における代表的な改竄とは、実験データや実験条件などの内容を事実とは違うものに書き換えることである。捏造と違うのは、試料を作成し、実験を遂行し、実験データを収集するところまでは本当であることだ。
実験によって収集したデータ群の中で、仮説を否定するようなデータを削除する、あるいは、仮説を補強するようにデータ群の一部に恣意的にデータ(実際には存在していない測定結果)を変更あるいは追加する(データの追加は、厳密には「捏造」に相当するとも解釈できる)。さらには、前提となる実験条件や試料作製条件などを、実験結果にとって都合の良いように書き換える。
一見すると改竄行為は捏造行為と五十歩百歩である。ただし、実験結果にはいわゆる「外れ値(はずれ値)」と呼ばれる、他の測定データ群とは著しく離れた測定データが含まれることがある。実験結果のデータ群から「外れ値」を取り除くことは、研究開発コミュニティーでは正当な行為、あるいは適切な行為として認められている。
「外れ値」の扱いに関する複雑な点は主に2つある。1つは、外れ値を見つけて取り除く手順が、積極的に求められる場合が存在することだ。例えば研究テーマによっては、試料の作製段階で人為的なミスが入りこむ可能性が少なくない。そこでミスが入り込んだサンプルを後で取り除くために、外れ値を見つけることが求められる。外れ値を含んだ実験データ群では、測定結果を適正に解釈できず、誤った解釈になってしまう恐れが高いからだ。
もう1つは、離れた測定データを「外れ値」と見なすかどうかの判断が、研究者自身に委ねられている点である。恣意的に外れ値であると判断し、データを取り除いてしまう危険性が含まれている。
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