研究開発における不正行為は、狭義では「捏造」「改竄(かいざん)」「盗用」の3つがある。今回は、これら3つの不正行為を、前後編の2回に分けて説明しよう。
前回は、研究開発コミュニティーを取り巻く代表的なダークサイド(闇の側面)をまとめてご紹介した。今回からは、ダークサイドを構成する各要素を説明していこう。始めは「研究不正(Scientific Misconduct)」を取り上げる。そもそも、研究不正とは何を指すのだろうか。
研究不正の定義はおおむね、2通りある。1つは広義の「研究不正」で、研究開発における不適切な行為あるいは不正な行為を全て、「研究不正」と見なす。もう1つは狭義の「研究不正」で、対象を3つの不適切な行為に絞っている。3つの行為とは「捏造」「改竄(かいざん)」「盗用」である。
研究不正に関する過去の議論を見ていくと、当初は研究不正を広い定義で扱うことが多かった。最近では狭義の研究不正を使い、研究不正とその他の不適切な行為を分けて議論することが多い。
狭義の研究不正は、基本的に学会発表や学術論文などの内容に関わるもので、さまざまな不適切行為を議論を整理する上では、この定義が扱いやすい。本シリーズでも、狭い定義で「研究不正」を扱うことにする。
研究不正を構成する3つの行為、すなわち、「捏造」と「改竄」「盗用」は、英文ではそれぞれ「Fabrication(捏造)」「Falsification(改竄)」「Plagiarism(盗用)」と表記する。そこでこれらの単語の頭文字をまとめて、研究開発コミュニティーでは「FFP」と呼ぶことが少なくない。日本では、研究不正に関する情報を提供する専門ウエブサイトで「研究ネカト」と表現されていることがある。「ネカト」とは「ねつぞう」「かいざん」「とうよう」の頭文字をまとめたものだ。
これら3つの不正行為を以下および後編で簡単に説明しよう。といっても3つの不正行為の中で「捏造」と「改竄」はいずれも実験に関する類似の不適切行為で、程度の差が両者を区別している。
実験に関する不正行為が発生する最も単純な理由は、論文の見栄えを良くする、あるいは論文そのものを偽造することで、研究者としての業績を上げることにある。
実験結果のデータ群を含む学術論文には大抵、仮説があり、それを検証するための実験に関する説明(実験装置や測定条件、試料の作成条件など)があり、実験結果のデータ群(普通は表組みやグラフなど)があり、実験結果と仮説の相違について検討した内容(実験結果と仮説が完全に一致することはあまりないので、違いの程度と理由を論じる)がある。ここで一見して素晴らしい論文は、仮説を裏付ける実験結果が取得できている。つまり、仮説を実験によって証明できたことになる。
例えば超伝導状態(電気抵抗がゼロになる状態)を出現させる材料の研究について考えてみよう。超伝導状態は普通、極低温でしか出現しない。超伝導状態を出現させる温度(「臨界温度」と呼ぶ)を高めることが、研究業績となる。そこで既存の材料を出発点とし、材料に独自の工夫を加えると臨界温度が高まるという仮説を立てる。そして実際に試料を作成し、実験(測定)によって超伝導状態の発生とその温度を確認する。仮説通りに超伝導状態を出現させる温度が上昇すれば、実験は成功である。そしてこの研究成果から、学術論文を書ける。大変に素晴らしいことだ。
(次回に続く)
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