GPUコア「PowerVR」を手掛けるImagination Technologiesは、Appleから、今後15カ月〜2年以内に、技術利用を停止するとの通達を受けたことを明らかにした。Appleは将来的に、独自に開発したGPUを同社のモバイル機器に搭載するとみられている。
Appleは、長年にわたりImagination Technologies(以下、Imagination)のGPUを使用してきたが、今後の新製品ではImaginationのIP(Intellectual Property)を使用しない方針であるとした。
Imaginationは2017年4月3日(英国時間)、Appleから、今後15カ月〜2年以内に、技術利用を停止するとの通達を受けたことを明らかにした。
Imaginationは英国に拠点を置くグラフィックスIP企業で、同社のGPUコア技術はこれまでAppleのスマートフォン、タブレット、「iPod」「Apple TV」「Apple Watch」に採用されてきた。Imaginationが受ける打撃は、疑いようもなく破滅的だ。
だが、GPU業界の関係者の間では、AppleがGPUの開発者を大量に雇用していたことから、今回の動きを「当然の展開」と見る向きもある。
Tirias Researchの主席アナリストであるKevin Krewell氏は、ImaginationがAppleなしで事業を継続できるとは思えないと述べた。同氏は、「Imaginationは、株価が特に低い水準になったタイミングで売却されるのではないか」と推測している。
Imaginationの苦境は以前から知られていた。
Tirias Researchの主席アナリストであるJim McGregor氏は「ImaginationはARMやVivanteにデザインウィンを奪われ、MIPS Technologies(以下、MIPS)の獲得も救いにはならなかった。MIPSと同様、GPUの競争が激しさを増していたにもかかわらず、Imaginationはその地位に甘んじていた」と述べた。
Imaginationはプレスリリースの中で、「Appleは自社製品を確実にコントロールするため、独自のグラフィック処理チップの開発を進めていて、Imaginationの技術への依存度を、将来的に下げる方針である」というAppleの発言を引用している。
だがImaginationは、AppleがImaginationの特許やIP、機密情報を侵害することなく、「全く新しいGPUアーキテクチャを基礎から設計することは、Appleにとって極めて難しい」ということもはっきりと示した。
つまり、この先、2社は法廷で争う可能性も出てきたということだ。
Tirias ResearchのKrewell氏もこの見方に同意した。Krewell氏は「Imaginationは法的な救済措置を模索するようになるとみられる。確かに、Imaginationの特許を侵害することなく新たなGPUを構築するのは極めて難しい」と述べた。
Krewell氏は「AppleとImaginationの間で、ImaginationのIPの価値に関する交渉が始まる可能性がある。消費電力やメモリ帯域に影響を与えやすいモバイルGPUのほとんどは、タイルベースの遅延レンダリング(TBDR:Tile Based Deferred Rendering)の手法を用いているが、Imaginationはその関連技術の幾つかについて特許を所持している。ただし、AMDやARM、NVIDIAも同様の特許を保有している」と述べた。
DirectX、OpenGL、Vulkanといった描画環境を使うGPUについてKrewell氏は、「1つのGPUを、機能的に同等のGPUに置き換えることは可能だ」と述べる。ただし、SoC(System on Chip)の内部に搭載されたGPUは置き換えが難しくなると、同氏は続ける。とはいえ、できないこともない。「実際、Samsung ElectronicsやMediaTekは、ARMの『Mali』やImaginationの『PowerVR』の両方を使っている」(Krewell氏)
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