前回は、強誘電体メモリ(FeRAM)の研究開発が再び活気づいてきた背景を紹介した。今回から2回にわたり、FeRAMの基礎を説明する。そもそも、「強誘電体」とはどのような材料なのだろうか。
前回は、国際メモリワークショップ(IMW)のショートコースで取り上げられた、強誘電体メモリ(FeRAM)技術に関する4つの講演テーマをご紹介した。今回からは最初の講演である、「強誘電体の基礎知識と物性、従来型FeRAM(Basics, History and conventional FeRAM)」の概要を参照しつつ、強誘電体メモリを解説していく。
講演者は、強誘電体の新材料であるハフニウム系酸化物の研究開発で主導的な地位にあるドイツのドレスデン工科大学で教授を務めるとともに、ハフニウム酸化物強誘電体の研究開発企業NaMLabのディレクターをつとめるThomas Mikolajick氏である。
強誘電体(ferroelectric materials)とは、誘電体(dielectric materials)の中で特別な性質を有する材料を指す。その特別な性質のことを「強誘電性(ferroelectricity)」と呼ぶ。
それでは誘電体材料とは、どのような材料なのだろうか。誘電体に共通する性質は、電気を通さないことだ。絶縁性と呼ばれる。そしてもう1つの重要な性質が、「分極(polarization)」である。分極とは、材料内部で電荷が「正(プラス)」と「負(マイナス)」に分かれている状態のことだ。
通常は、誘電体内部で分極は発生しておらず、電荷はランダムに存在している。ここで誘電体に外部から電界(外部電界)を加えると、正の電荷と負の電荷が電界を打ち消す方向にそろい、誘電体の内部に分極が発生する。プラスの部分とマイナスの部分が生じる。外部電界をゼロにすると、分極も消える。分極が消えるタイプの誘電体を「常誘電体」と呼ぶ。
分極は、電界によって生じるとは限らない。機械的な圧力を加えて誘電体を変形させると、分極が生じることがある。このような誘電体を「圧電体(piezoelectric materials)」と呼ぶ。機械的な圧力をゼロにすると変形がなくなり、分極も消失する。これらの現象を「圧電効果(piezoelectric effect)」と呼ぶ。
それでは、圧電体に外部電界を加えるとどうなるのだろうか。機械的な変形が起こるとともに、圧電体の内部に分極が発生する。この現象を「逆圧電効果」と呼ぶ。理工学(具体的には物理学と電気工学)の世界では、圧電効果と逆圧電効果をまとめて「圧電効果」と呼ぶことが多い。
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