技術メーカーにとって、ビジネスの勝負どころが、常に「技術そのもの」とは限らない。その一例が「デファクト・スタンダード」を目指すということである。
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今回紹介するのは、RFIDを手掛けるAlien Technology(エイリアンテクノロジー)だ。1994年に設立され、米国カリフォルニア州に拠点を置いている。
米国には、世界最大規模のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」があるが、ウォルマートがあれだけ大きく成長したのは、バーコードによる在庫管理の手法をいち早く取り入れたからだ。そして、2000年代当時、ウォルマートは、このバーコードを電子化、つまりEPC(Electronics Product Code)と呼ばれる電子タグを導入したいと考えていた。
筆者がAlien Technologyの日本戦略担当アドバイザーになったのは2003年だ。同社は、筆者がアドバイザーに就任することについて記者発表も行っている。
当時は既に、Alien TechnologyはRFIDを手掛けていたが、同社のもともとの事業は、RFIDではなかった。同社が開発していたのは、もともと米カリフォルニア大学バークレー校で研究されていたFSA(Fluidic Self Assembly:自己整合配置)技術である。微小なデバイスブロックを基板から切り離し、液体中でターゲット基板上に散布することで、デバイスブロックを配置する技術だ(参考:極微電子工学講座)。
FSAは製品技術ではなく、あくまでも製造技術だが、Alien Technologyは、FSAを活用してディスプレイを開発しようとしていた。だが、ディスプレイ開発事業がなかなかうまくいかず、RFID事業を始めたという経緯がある。ディスプレイの開発からRFIDの開発に舵を切ったのは賢明なピボット*)だったといえる。ちなみに、FSA向けの装置をAlien Technologyに提供していたのは、東レエンジニアリングである。
*)当初のビジネスプランがうまくいかず、別のプランに転換することを「ピボット」と呼ぶ(関連記事:日本のメーカーに救われたスイス発ベンチャー)
さて、RFIDなどの電子タグの業界には、「EPCglobal」という標準化団体がある。EPC技術の普及と標準化を促進するために設立された団体だ。
EPCの標準化が早速始まったわけだが、業界の常として、標準化作業というのはなかなか進まないものだ。参画しているメンバーは「標準化する」ということについては一致していても、各論になると全くまとまらない。
まさに「総論賛成、各論反対あるいは、各論バラバラ」の状況である。とはいえ、「標準化されれば広く使われる」ということは全員分かっているので、何とか標準化を進めていった。旧Sun Microsystems(Oracleが買収)が事務局となってEPC globalの会議を行っていた他、日本も、EPCの標準化にずいぶん大きな役割を果たした。貿易立国を掲げていた日本政府も多国をまたぐサプライチェーンにはICタグの標準化が必須であるとし、力を入れていたのである。EPC globalの会合も何度も日本で開催されている。
EPCglobalは、860M〜960MHz帯の周波数帯を使う技術を「Gen 2(第2世代)」と定めたが、実は、Gen 2のフォーマットのドラフトにおいて、その8割はAlien Technologyの技術がベースになっていた。そのため、最終的なGen 2フォーマットにもAlien Technologyの技術が採用されるものとみられていた。
ところが、IBMなどの大手企業が、こぞって反対したのである。ここで、Gen 2の標準化作業はまた立ち止まってしまった。
困り果てたAlien Technologyに、筆者は「EPCglobalでの標準化してもらうという考えは、いったん捨てること」を提案した。
なかなか進まないEPCglobalでの標準化を待つよりも、何かのアプリケーションにAlien Technologyの技術を大規模に導入してもらい、いわゆる「デファクト・スタンダード」にしてしまう方がはるかに速いと考えたのである。
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