産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、燃料電池などのエネルギー変換に伴う原子の動きをリアルタイムに観察できる技術を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)と科学技術振興機構(JST)、物質・材料研究機構(NIMS)、東京学芸大学および、高エネルギー加速器研究機構(KEK)らの研究グループは2017年10月、燃料電池などのエネルギー変換に伴う原子の動きをリアルタイムに観察できる技術を開発したと発表した。放射光表面X線回折法を従来に比べ約100倍も高速化することで実現した。
今回の研究成果は、産総研物質計測標準研究部門ナノ構造化材料評価研究グループの白澤徹郎主任研究員と、JST、NIMSナノ材料科学環境拠点(GREEN)の増田卓也主任研究員ら、東京学芸大学教育学部のVoegeli Wolfgang助教ら、KEK物質構造科学研究所の松下正名誉教授によるものである。
燃料電池や蓄電池は、固体電極と液体との界面で生じる電気化学反応により、化学エネルギーが電気エネルギーへと変換される。この変換効率を高めていくには、反応機構を十分に理解する必要があるという。このため研究グループは、電極表面の白金原子の動きをリアルタイムで観察することができる計測技術の開発を行った。
表面X線回折法は、液体や固体を透かして界面にX線を照射して、回析されるX線の強度分布を測定する。この方法を用いると、界面構造を0.01nmより高い精度で測定できる。しかし、従来法だと試料の角度を変えながら1点ずつ測定するため、測定時間が数分以上も必要となっていた。
研究グループは今回、放射光X線をプリズムに相当する湾曲結晶に通し、そこから得られる多波長X線(波長分散集束X線)を試料の1点に集束し入射させた。試料に入射したX線は、波長ごとに異なる方向に回析をする。この回析X線を2次元X線検出器によって一度に計測する仕組みである。
この結果、試料を動かさず界面構造に関する情報を1秒以下で得ることが可能となり、界面構造の変化をリアルタイムに観察できるようになった。この方法を固液界面の観察に適用し、電気化学反応における電極表面の原子追跡を初めて実現したという。
研究グループは、今回開発した表面X線回折法の性能を実証するため、メタノールの電気分解の様子をリアルタイムで観察した。モデル触媒電極として用いた白金単結晶は、電極電位が「ゼロ」の時、一酸化炭素(CO)分子に覆われているため、触媒活性化は極めて低く、電気分解による電流はほとんど流れなかった。
電極電位を正方向に走査したところ、約0.6VにおいてCO分子の脱離を示す電極表面原子の位置変化を観測、電極を流れる電流も著しく増加したという。この現象は、CO分子の脱離と同時に、白金電極表面の触媒活性が向上し、メタノールの電気分解が促進されることを示すものだという。
また、電極電位を走査した時に、正方向と負方向では異なる構造変化を観察した。吸着したCO分子を脱離させるためには過剰な電気エネルギーが必要であり、メタノールの電気分解は、CO分子の脱離による律速を示すものだという。「CO被毒」と呼ばれる白金触媒電極へのCO分子の吸着作用は、燃料電池のエネルギー変換効率を低下させる要因となっている。開発した方法を用いることで、効率改善につながる反応過程をリアルタイムに観察することが可能となった。
研究グループは今後、燃料電池電極の劣化過程や蓄電池の界面反応過程の観察などを行っていく。また、全固体蓄電池など固体積層デバイスの界面反応過程を観察していくことにも取り組む予定である。
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