物質・材料研究機構(NIMS)がリチウム空気電池の電解液を新開発し、77%のエネルギー効率と50回以上の放電サイクル寿命を達成した。
物質・材料研究機構(NIMS)は2017年7月31日、リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する新しい電解液を開発したと発表した。同電解液により、従来60%程度だったエネルギー効率が77%に、従来20回以下だった放電サイクル寿命が50回以上に向上したという。
リチウム空気電池は、正極活物質として空気を活用し、負極にリチウム金属を用いた2次電池だ。リチウムイオン電池の5〜10倍の理論エネルギー密度を持つため、蓄電容量の劇的な向上と大幅なコストダウンが期待できる。しかし、その実用化には、エネルギー効率が低く、負極の寿命が短いという課題があった。
リチウム空気電池の放電反応では、負極からリチウムが溶け出し、正極で酸素と反応することで、過酸化リチウム(Li2O2)が析出する。だが、過酸化リチウムは分解が起こりにくい。そのため、充電電圧が4.5V以上(正極過電圧が1.6V以上)に高まり、エネルギー効率(放電電圧2.7Vと充電電圧の比)は約60%と低くなる。
一方、リチウム空気電池の充電反応では、正極の過酸化リチウムが酸素とリチウムに分解し、負極にリチウム金属が析出する。その際、リチウム金属はデンドライト状(樹枝状)になり、寿命が著しく低下する。
NIMSの研究グループは今回、エネルギー効率とリチウム金属負極の寿命を同時に高めるために、支持塩として臭化リチウム(LiBr)と硝酸リチウム(LiNO3)を含む混合電解液を開発した。
この混合電解液を用いたリチウム空気電池では、正極過電圧が従来の1.6V以上からその半分以下の約0.6Vに下がり、エネルギー効率が77%に上がった。NIMSは、臭素イオンの酸化還元反応に基づく「レドックスメディエーター」効果が、エネルギー効率の上昇を起こしたと見ている。
一方、負極側ではリチウム金属のデンドライト発生が全く起こらなかった。NIMSはその理由について、「リチウム金属の表面は極薄の酸化リチウムの保護膜に覆われており、それを通じて一様なリチウム金属の析出が起こっているのではないか」と推測している。「これは、硝酸リチウムと臭化リチウムの相乗効果であると考えられる」という。
リチウム金属のデンドライト状の析出が防止された結果、充放電サイクル寿命は50回以上に向上した。また、充放電サイクル中に起こる副反応の量も、従来の10分の1に減少した。
今回の研究成果は、高い充電電圧(正極の過電圧)やリチウム金属負極のデンドライト発生という問題に解決の見通しを与える。NIMSは今後、メカニズムの詳細な解明を進め、電解液組成を含めた各種条件の最適化を図る。それにより、電気自動車や家庭用蓄電池に向けて、大容量で長寿命なリチウム空気電池の早期実用化を目指すという。
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