情報通信研究機構(NICT)の研究グループは、窒化ニオブを用いた磁性ジョセフソン素子の開発に成功した。低損失で冷却も容易なため、超電導量子コンピュータ向けの新たな基本素子として期待される。
情報通信研究機構(NICT)の山下太郎主任研究員らによる研究グループは2017年11月、窒化ニオブを用いた磁性ジョセフソン素子の開発に成功したと発表した。超電導量子コンピュータなどに搭載する超電導デバイスの消費電力を大幅に削減することが可能となる。
超電導デバイスに用いられているジョセフソン素子はこれまで、超電導体に存在する電子のペア(クーパー対)の位相が全てそろった状態となる「巨視的位相」に、ねじれを発生させるため外部から電流や磁場を印加する必要があった。これが消費電力を増大させ、外来ノイズの原因にもなっていたという。
研究グループは今回、酸化マグネシウム基板上に表面平滑性に優れ超電導転移温度の高い窒化ニオブと、銅ニッケルの薄膜を配向成長させた。この工程で接合界面をより精密に制御することで、窒化物超電導体による「パイ状態」磁性ジョセフソン素子の開発に初めて成功したという。
研究グループは、磁性層の膜厚が異なる素子を複数個作製し、それぞれのジョセフソン臨界電流を測定した。この結果、磁性層の膜厚が特定の範囲にある素子は、巨視的位相が180度ねじれるパイ状態を発現していることが実験により分かった。このため、外部から電流や磁場を印加する必要がなく、大規模な超電導デバイスの開発が容易になるという。
一般的なジョセフソン素子は、位相のねじれがない「0状態」で安定し、ジョセフソン臨界電流は温度上昇に対して単調に減少する。これに対し磁性ジョセフソン素子は、磁性層の膜厚や動作温度によって、「0状態」と「パイ状態」が変化する。その転移点では、ジョセフソン臨界電流の温度依存性に、特有のディップ構造が現れるという。研究グループは、このディップ構造を観測することに成功した。これによって、作製した磁性ジョセフソン素子で、パイ状態が生じていることを実証した。
パイ状態では巨視的位相のねじれが生じており、超電導体のリングに磁性ジョセフソン素子を組み込んだ場合、外部から電流や磁場を印加しなくてもリング中に自ら電流が流れるという。開発した素子を超電導量子コンピュータや超電導集積回路に組み込むと、これまで巨視的位相制御に必要であった外部電流やミリテスラレベルの磁場を削減することができる。これによって、集積回路の大規模化や低消費電力動作が可能となる。
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