理化学研究所らの研究グループは、シリコン量子ドット構造で世界最高レベルの演算精度を実現した電子スピン量子ビット素子を開発した。シリコン量子コンピュータの開発に弾みをつける。
理化学研究所らの研究グループは2017年12月19日、シリコン量子ドット構造で世界最高レベルの演算精度を実現した電子スピン量子ビット素子を開発したと発表した。シリコン量子コンピュータの開発に弾みをつける。
今回の研究は、理化学研究所グループディレクターで東京大学大学院工学系研究科教授も務める樽茶清悟氏と理化学研究所基礎科学特別研究員の米田淳氏らによる研究グループが、東京工業大学の小寺哲夫准教授や慶應義塾大学の伊藤公平教授、名古屋大学の宇佐美徳隆教授らと共同で行った成果である。
研究グループは、ひずみシリコン基板中に量子ドットを形成し、閉じ込められた単一電子スピンを量子ビットとして用いた。量子ドットの真上には特殊形状の微小磁石を置き、電子スピンに対して不均一磁場を印加した。
素子にマイクロ波電気信号を印加し、不均一磁場中で電子の位置をナノメートルレベルで変調したところ、ラビ信号を観測することができた。これにより、単一電子スピン演算は通常の時期的操作に比べて約100倍も高速に実行されていることが分かった。
さらに研究グループは、量子ドットの周りにある材料から、核スピンをもつ同位体を取り除いたところ、量子情報の保持時間は20マイクロ秒を達成。従来に比べて10倍長くなることが分かった。量子演算の正確性を検証したところ、「高速演算」と「量子情報の長時間保持」を両立できたことで、量子演算の誤り率の最高値も、従来に比べて約1桁小さくなったことを明らかにした。
研究グループは、量子ビットの量子情報を喪失させる雑音源についても調査した。この結果、核スピンのような磁気的雑音によるものではなく、1/fのスペクトルをもつ電荷雑音が支配していることを初めて明らかにした。そこで研究グループは、高速スピン操作により電荷雑音の影響を部分的に相殺したところ、3ミリ秒の量子メモリ時間を実現することができたという。
今回の成果について研究グループは、「シリコン量子ドット構造において、超高精度の電子スピン量子ビットの実装方法を確立したことで、超電導量子ビットと同程度の単一量子演算を実現することが可能になる」という。また、電荷雑音への対応も踏まえて、シリコン量子コンピュータの開発が加速される見通しとなった。
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