IoT(モノのインターネット)の時代では、多くのセンサーが使用される。そうしたセンサーの電力コストや電池交換の手間を減らせるエネルギーハーベスティング技術について考察する。
周囲の環境からエネルギーを収穫(ハーベスト)して電力に変換する技術をエネルギーハーベスティングという。太陽光や室内光、振動や温度差によって発電する素子やモジュールは数多く研究されており、身の回りでもソーラー電卓や振動で発電するクオーツ腕時計など既に実用化されているものもたくさんある。
さらに時代をさかのぼっても、鉱石ラジオは電波をエネルギーに変換し、自転車のダイナモは回転運動を電気に変えている。
技術分野としては光や振動、電波など広範にわたるが、IoT(モノのインターネット)時代を迎えてあらためて注目を集めている。
IoTという言葉はすっかり一般化しているが、まだまだIoTを目的として捉える向きも多い。IoTを手段として、達成すべき目的が語られるようになるのはIoTという言葉が使われなくなったその日であろう。
そんな近い将来、IoTはさまざまな目的のために幅広く浸透しキーワードとしては埋没していくことになるが、その過程でセンサーや通信モジュールの小型化、無線化は欠かせない。センサーを「ばらまく」というイメージである。ばらまかれる小型センサーにおいてはサブギガヘルツ帯、LPWA(Low Power Wide Area)などの無線技術に注目が集まっているが、併せて考えたいのが電源問題である。
IoTの末端であるセンサーノードで一般的に使われる電池は、もともと電力コストがべらぼうに高い。電力会社の電力料金は標準的なもので1kWh当たり20円弱である。これに対して乾電池の場合、単3形アルカリ電池の電池容量は2000mAh程度(使用する環境や条件によって異なる)とされており、1.5V電圧で3000mWhの電力量を持つ。1本30円とすると、1kWh当たりで約1万円、AC電源に比べると500倍以上にもなる。それでも乾電池でなくてはならないから使う。利便性がコストを代替している典型的な例である。
エネルギー市場全体では発電の分散化というパラダイムシフトが起きている。この潮流の中で、究極の分散電源といえるエネルギーハーベスティング技術を採用し、電力コストや電池交換の手間を減らすことはIoT技術の普及に大きな意味がある。
振ったり回したりすることで発電するモジュールはウェアラブルデバイスへの応用が期待されているし、JR東京駅の改札付近では床に敷き詰めた圧電素子で発電する実験が行われた。
ボタンを押す瞬間に発生した電気を使ってワイヤレススイッチとなるEnOceanは、エネルギーハーベスティングと省電力無線を組み合わせた技術である。
プラント設備や配管のモニタリングを行うセンサーは、機器の発生する熱や配管の内と外の温度差を利用した自立電源を実用化している現場も多い。さらに、力学的エネルギーとしての振動発電モジュールと組み合わせて発電量を最大化することもできるだろう。
微生物やバイオを使ったもの、漏出する電波を利用するものなど他にもさまざまな技術が研究されている。
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