情報通信研究機構(NICT)は、東北大学や東京工業大学と共同で、極めて小さい原子時計システムの開発に成功した。既存の原子時計に比べ、1桁以上優れた周波数安定性を得られるという。
情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所の原基揚主任研究員らは2018年1月23日、東北大学大学院工学研究科 機械機能創成専攻の小野崇人教授や、東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の伊藤浩之准教授らと共同で、極めて小さい原子時計システムの開発に成功したと発表した。スマートフォンにも搭載可能な形状と消費電力を実現することが可能だという。
研究グループは今回、圧電薄膜の厚み縦振動に着目した。3.5GHz帯で優れた共振動作を示す圧電薄膜共振子(FBAR)を周波数レファレンスとして用い、マイクロ波発振器を開発した。これまで外付けしていた水晶発振器やPLLを用いた周波数逓倍回路は不要となり、シンプルな回路構成を実現した。
この結果、市販の原子時計に比べて、チップ面積を約30%、消費電力を約50%、それぞれ低減できるという。現状はFBARとそれを発振させるための増幅器が個別に実装されワイヤで接続されているが、将来は1チップに集積される可能性が高い。
さらに研究グループは、MEMS技術を用いて小型ルビジウムガスセルを独自に開発した。これまでガラス管を利用して製造されていたが、今回はウエハープロセスで製造するため、小型化と量産性に優れ、製造コストを節減することも可能になるとみている。
試作したこの小型ガスセルとFBARマイクロ波発振器を組み合わせて同調動作させたところ、1秒間で2.1×1011という周波数安定度を得ることができた。この数値は、市販の原子時計に比べて1桁以上の性能改善になるという。FBARマイクロ波発振器の特性を評価したところ、3.4GHz帯で良好な発振を確認した。また、オフセット周波数1MHzにおける位相雑音は140dBc/Hz、発振器の性能指数に換算すると−201dBの発振を示すことが分かった。
研究グループは、開発したガスセルより得られる原子共鳴(CPT共鳴)や、CPT共鳴に同調動作(原子時計動作)させたときの周波数安定度についても計測した。この結果から、共鳴線幅が大幅に改善されることや、優れた周波数安定度を達成していることが分かった。
研究グループは今後、デジタル制御系の簡略化や省略化、さらなる低消費電力化、光学系を有するガスセルの開発などに取り組む予定である。早期サンプル出荷に向けて、原子時計のチップ化に向けた開発も加速する。
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