筑波大学数理物質系の伊藤良一准教授らは、腐食耐性に優れ水素発生効率の高い卑金属電極を開発した。この卑金属電極は、白金などに代わる安価な水素発生電極として有用であることが分かった。
筑波大学数理物質系の伊藤良一准教授は2018年3月、大阪大学の大戸達彦助教、東北大学の阿尻雅文教授らと協力して、腐食耐性に優れ水素発生効率の高い卑金属電極を開発したと発表した。この卑金属電極は、白金などに代わる安価な水素発生電極として有用なことが分かった。
水素は次世代のクリーンなエネルギー源として注目されている。ところが従来方法で水素を製造すると、化石燃料を大量に消費しなければならなかった。そこで伊藤氏らの研究グループは、水素製造時における純度とエネルギー変換効率に優れている固体高分電解質膜(PEM)水電解に着目した。この方法では電極に用いる白金のコストが課題となっており、代替材料の研究を行ってきた。
研究グループは、0.5Mの硫酸水溶液中で卑金属の性能を保持しつつ、溶解しない水素発生電極の開発に取り組んだ。これまで、グラフェンで卑金属表面を完全に覆う手法が報告されているが、水素発生能力が極めて小さいなどの課題があった。
そこで今回、部分的にナノサイズの穴が開いたグラフェンを用いた。これにより、卑金属と水素イオンが直接接して化学反応を起こし、水素が発生する面積を最小限に抑えた。同時に、大部分をグラフェンで覆うことにより、腐食を極めて小さく抑えることのできる構造体とした。
穴の開いたグラフェンで保護された多孔質卑金属合金(ニッケルモリブデン多孔質体)は、化学気相蒸着(CVD)法により、ワンステップで作製する。このため、量産性に優れているという。具体的には、超臨界水熱合成法を用いて合成した酸化ニッケルモリブデンナノファイバーに、粒径20nmのシリカナノ粒子を混ぜて固めたシートを、水素雰囲気下で加熱還元しながらナノ多孔質構造を形成した。
ニッケルモリブデン多孔質体の表面を電子顕微鏡で観測した。これにより、グラフェン膜の中にシリカナノ粒子が埋め込まれていることが分かった。シリカナノ粒子を取り除くことで、ナノサイズの穴を形成することができる。シリカナノ粒子の量によって、穴の大きさを調整できることも分かった。
多孔質化卑金属は、比表面積(3m2/g)と孔半径が500〜1000nmまで調節可能な構造体であり、従来の2次元平面構造に比べて約10倍の表面積となる。これによって、水素発生の化学反応に必要な経路と面積を十分に確保できる。製造コストも白金の100分の1で済むという。
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