さて、次に2010年の状態が、固定されて、2100年まで続くとしたら、どうなるかを、先ほどのグラフの上に重ねてみました(ソースコードはこちら)。
ここで一つ言えることは、労働人口問題に関して、
―― 「女性活用」の施策は、出生率低下(2.13→1.44)の前には、ほとんど「風前のともしび」程度の効果しかないという事実
です*)。
正直、計算結果を見た私自身が衝撃を受けて、パソコンの前で呆けてしまったくらいです。
ですが、「無いものねだり」をしても仕方ありません。「女性活用」の施策しか活路を見いだせないのであれば、そのフィールドで闘うしかありません。
しかし、前述したように、「女性が働く」ということは「女性が子どもを産めない」ということです(ここを、言葉で飾ってみたところで、仕方がありません)。で、問題は、女性が働くことによって、どのくらい女性が子どもを産めなくなるのか、ということです。
そこで、「労働人口比率と出生率は関連がある」という仮説を立てて、エクセルを使って回帰分析を行い、その相関が最も高くなる期間を調べてみました。
手当たり次第計算を試みてみたところ、女性の「20〜34歳までの労働人口比の平均値」と、「合計特殊出生率」の相関が、"0.8以上"の高い値となりました*)。この結果から、出生率と、女性の結婚年齢には、強い相関があることも推認されます。
*)統計的には0.7以上あれば、「かなり強い相関がある」と評価できます。特殊出生率の拠出根拠である15〜49歳の他、15〜29歳、20〜49歳なども調べたのですが、相関係数は全て0.7を切ってしまいました。
この相関関数を使って、回帰直線を引き、さらに、2015年の国勢調査結果を使って、女性の労働人口比率を、男性と同じになる未来を想定してみました。要するに、女性を男性のように働いてもらう仮想世界を作ってみることにしたのです。
―― 出生率0.82人
1人の女性から2人の子どもが産まれてこないと、その国は人口を維持できません(正確には、人口を維持するボーダーラインは、出生率2.08人といわれています)。
この未来からは、1人の女性から1人の子どもすら産まれてこないことになります。こんな恐しい値"0.82"は、私が知っている限り、現時点で世界中のどの国にもなく、そして、歴史上一度も登場したことはありません。
そして、この"0.82"をシミュレーターに突っ込んでみたら、さらに恐しい結果が出てきました(ソースコードはこちら)。
確かに、「女性活用」を推進すれば、確かに労働人口は増えます(シミュレーターは、「現時点で500万人くらいは行けそう」という結果をたたき出しています。政府の白書では、実測値として150万人増という記載がありました)。
しかし、女性の労働人口比を上げることによって、逆に、出生率の方は、壊滅的な損害を受けます。この結果、私のシミュレーションでは、2046年に労働人口の増減の逆転現象が発生しています。
そして、2100年における日本の人口は、現在の状況を維持したとして2370万人(これでも相当にひどいです)ですが、女性活用を極める(男性と同程度の労働人口比率とする)ことによって、1009万人と半減以下となってしまうのです。
労働人口と出生率に線形の関係が成り立つか不明ですし、また出生率0.82などという、ぶっとんだ結果が本当に出てくるか、と言われると、シミュレーションを実施した私自身すら信じたくないです。
しかし、私の試みた簡易かつ単純なシミュレーションでは「女性活用」からは、絶望的な未来しか出てきませんでした。『だからこそ、男性の育児参加(イクメン)*)や、生産率の向上**)が必要なんだ』 ―― 「『女性活用』の周辺環境」が重要だ ―― という意見が出てくるのは当然です。
*)、**)ところで、私、この「イクメン」とか「家事を手伝う」とか言うフレーズが嫌いです(著者ブログ)。
今回、私は、あえてこれらの「『女性活用』の周辺環境」を加えた計算を省略致しました。多分、次々回に予定している「子育て、介護、障害者就労」で、皆さんに、私が省略した理由をご理解いただけると思います。
ところで、政府のシンクタンクは、当然、この程度の計算は完了している(いますよね?)と思いますが、それでも市井の一週末研究員としては、
―― 働き方改革の「女性活用」ついては、超高精度な制御装置を取り扱うような(原子炉の臨界制御くらいの)慎重さで運用を進めていただきたい
と、それを願うばかりです。
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