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ありふれた元素で窒化物半導体を開発、高性能化を実現安価な薄膜太陽電池に応用も

東京工業大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは、希少元素を含まない窒化銅(Cu▽▽3▽▽N)を用いて、高い伝導キャリア移動度を示すp型とn型の窒化銅半導体を開発することに成功した。

» 2018年06月28日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

 東京工業大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは2018年6月、希少元素を含まない窒化銅(Cu3N)を用いて、高い伝導キャリア移動度を示すp型とn型の窒化銅半導体を開発したと発表した。薄膜太陽電池など大面積で安価な窒化物半導体の薄膜形成に応用が可能だという。

 今回の成果は、東京工業大学科学技術創成研究院の細野秀雄教授(元素戦略研究センター長)、元素戦略研究センターの松崎功佑特任助教、科学技術創成研究院の大場史康教授、物質理工学院の原田航大学院生、元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授、笹瀬雅人特任准教授および、NIMS先端材料解析研究拠点の木本浩司副拠点長、越谷翔悟ポスドク研究員、上田茂典主任研究員らの共同研究によるものである。

 薄膜技術を用いた太陽電池は、安価で高い変換率を実現するための研究が行われている。近年はペロブスカイト型太陽電池などが注目されている。しかし、これらの材料には希少金属や有毒金属などが含まれることもあり、環境面で課題となっている。このため、より安価で環境にも優しく、高い変換効率を実現できる新たな太陽電池向け材料の開発が急務となっていた。

薄膜太陽電池などにおける窒化物半導体の薄膜形成を可能に

 研究グループは今回、銅金属の触媒機能に着目。アンモニア分子の酸化反応によって得られる活性窒素種(NH、NH2など)を窒素源とする銅の窒化物合成法を考案した。具体的には、アンモニアと酸素(O2)の混合気体を用いて生成した活性窒素種によって、銅から窒化銅を直接合成することに成功した。合成可能な温度範囲は200〜800℃と広い。

 開発した直接窒化法により、これまで難しかった高品質の窒化銅薄膜を作製することが可能となった。作成した窒化銅薄膜は、n型半導体で、第一原理計算による予測と一致した。電子濃度は1015〜1016cm-3に抑えた。電子移動度は180〜200cm2/Vsである。

 さらに研究グループは、p型半導体を作製するために、窒化銅の結晶構造に着目。ドーパントの候補を第一原理計算で探索したところ、フッ素イオン(F)の挿入が有効であると分かった。この理論予測に基づき、三フッ化窒素(NF3)を用いてフッ素が添加された窒化銅を作製した。

 研究グループは、電子線エネルギー損失分光を用いた走査透過型電子顕微鏡で、作製した試料を観察した。この結果、フッ素が格子中心の空隙に存在していることを確認した。硬X線光電子分光による電子状態解析とキャリア輸送特性も評価した。この結果、フッ素を添加した窒化銅は、p型半導体であることが分かった。正孔濃度は1016〜1017cm-3で、正孔移動度は50〜80cm2/Vsとなった。

左上はNH3/O2ガスを用いた銅の直接窒化法とその応用原理、左下は第一原理計算による予測、右上はCu3N:Fの原子マッピング像、右下は直接窒化法で作製したp型とn型Cu3N薄膜の移動度とキャリア濃度のグラフ (クリックで拡大) 出典:東京工業大学、NIMS

 Cu3Nは、どこにでもある元素だけで構成される間接遷移型半導体。太陽光スペクトルに適したバンドキャップ1.0eVと高い吸収係数を持つ。開発した合成法は大面積、低コスト化に適している。研究グループによれば、今回の成果を活用することで、Cu3Nのpnホモ接合を用いた薄膜太陽電池の実現に期待できるという。

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