東京工業大学の研究グループは、消費電力が極めて小さいBLE(Bluetooth Low Energy)無線機の開発に成功した。これまでに報告されたBLE無線機に比べて、消費電力は半分以下だという。
東京工業大学工学院電気電子系の松澤昭教授と岡田健一准教授らの研究グループは2018年2月、消費電力が極めて小さいBLE(Bluetooth Low Energy)無線機の開発に成功したと発表した。新型デジタル制御遅延回路(DTC)の開発などにより実現した。
今回の研究成果は大きく2つある。1つは新型DTCを採用することで、低ジッタかつ広帯域の特性を持つデジタルPLL回路を開発したこと。もう1つは、このデジタルPLL回路を用いて世界最小電力で動作するBLE無線機を実現したことである。
従来のDTCは、大きな容量を充電する必要があった。このため消費電力は大きく高速動作も難しかったという。これに対し新型DTCは、充電容量が小さくて済み、少ない電力消費で高速動作を可能とした。
この技術をデジタルPLL回路に用いた。ジッタを消費電力で正規化したPLL FoM(Figure of Merit)特性は、−246dBを達成した。従来の技術ではこのFoM特性を得るために8.2mWの電力を消費していたという。開発した技術だと、動作時の消費電力は0.98mWで従来の8分の1以下となる。低消費電力モードでは0.65mWでの動作が可能だという。
開発したBLE無線機は、キャリア再生やアナログデジタル変換をPLL回路で処理する。これにより、消費電力を大幅に節減することが可能となった。しかも、従来のデジタルPLL回路で課題となっていたジッタなども、新型DTCを採用したことで解決することができた。
この結果、A-DコンバーターICなどが不要となり、BLE無線機の受信部は回路規模を半分にすることができる。また、A-D変換の性能向上を図るため、オフセット分をフィードバックさせることで、分解能を向上させることも可能である。
BLE無線機は、送受信回路や局部発振器(PLL)、ベースバンド変復調器などの回路ブロックで構成され、変復調されたデジタル信号として入出力が可能である。最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスを用いて試作したチップサイズは2.26×1.90mmである。
開発したBLE無線機の消費電力は送信時2.9mW、受信時2.3mWである。これまでの最小消費電力として送信時7.7mW、受信時6.3mWが他企業から報告されているという。今回はこれに比べて半分以下の消費電力を実現した。
なお、今回の研究成果は、米国サンフランシスコで開催された半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC 2018」(2018年2月11〜15日)で発表した。
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