東京工業大学らの研究グループは、材料にカーボンナノチューブ(CNT)膜を用いたテラヘルツ検査チップを開発した。検査チップを指先に取り付け、配管の亀裂検査などを非破壊で行うことが可能となる。
東京工業大学科学技術創成研究院の河野行雄准教授と理化学研究所の鈴木大地博士(当時は東工大河野研究室所属)、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の耼原有紀博士らは2018年6月、材料にカーボンナノチューブ(CNT)膜を用いたテラヘルツ検査チップを開発したと発表した。この検査チップを指先に装着して、配管の亀裂検査などを非破壊で行うことが可能となる。
河野氏らは、CNT膜の光熱起電力効果を応用したフレキシブルなテラヘルツ帯撮像デバイスを2016年に開発した。この技術を、注射器など医療器具の破損や異物混入を非破壊で検査する用途に適用してきた。今回は、CNT膜の相対ゼーベック係数やテラヘルツ光照射に対する吸収率の最適化に取り組んだ。
今回の研究では、フレキシブルテラヘルツ検出器の高感度化を行った。このためにはCNT膜のフェルミ準位を制御する必要がある。ただし、検出器に用いるような厚みのあるCNT膜は、一般的な手法による制御が難しかったという。
そこで河野氏らは、半導体と金属が混合しているCNT膜を分離した。その上で、電気二重層技術および、ゲート電極を用いない化学的ドーピングにより、フェルミ準位を連続的に変えながら熱雑音やテラヘルツ吸収率、相対ゼーベック係数を測定した。この結果、CNT膜におけるフェルミ準位の位置とテラヘルツ応答の強度は、密接に関係していることが分かった。
作製したフレキシブルテラヘルツ検出器は、折り曲げることが可能で耐久性に優れている。このため、指先のような歪曲(わいきょく)した部位にも装着できる。また、大規模な測定系を必要としないため、工場内の配管設備など狭い場所での作業も容易である。
研究グループは今後、検出器の多素子化や微弱信号の高感度読み取り回路と無線通信部の集積化などに取り組む。
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