シリコンフォトニクスではシリコンを基板とする。光変調用の半導体材料には、シリコン基板に成長しやすいゲルマニウムとシリコンの化合物(GeSi)を使う。シリコンの単元素材料を使わないのには理由がある。シリコンではバンドギャップ(バンドギャップ)が広すぎるのだ。
データセンターなどで使う超高速光伝送には普通、波長が1550nmの光ビームを使う。これはバンドギャップだと、約0.8eV(エレクトロンボルト)に相当する。これに対してシリコン半導体のバンドギャップは室温で約1.11eVであり、基礎吸収端の波長(光を吸収する最も長い側の波長)は約1100nmとなる。つまり、波長1550nmの光をシリコンは吸収しない。
そこで、バンドギャップがシリコンよりも狭い、ゲルマニウム(Ge)の利用を考える。ゲルマニウムのバンドギャップは室温で約0.67eVであり、基礎吸収端の波長に換算すると約1850nmとなる。1550nmの光は波長が1850nmよりも短いので、ゲルマニウムが吸収する。
ゲルマニウムとシリコンの化合物であるGeSi半導体は、GeとSiの組成比を変えることによって吸収端を約1850nmから約1100nmまで調整できる。シリコン基板にGeSi半導体を成長させることは比較的容易なので、電界吸収変調器ではGeSi半導体のフランツケルディッシュ(Franz-Keldysh)効果を利用して変調(光吸収)を制御する。
実際の試作例を見てみよう。Siの光導波路の上にGeSi半導体の光変調薄膜を成長させ、p型とi型、n型のpin接合を形成する。このGeSi半導体のpin接合ダイオードに逆方向のバイアス電圧を外部から加えることで、光の吸収量を制御する。
フランツケルディッシュ効果を利用した電界吸収変調器の最大の特長は、効果が非常に素早く現れることだ。遅延時間は数ピコ秒にすぎない。このため、フランツケルディッシュ効果が現れるまでの遅延時間ではなく、変調器の寄生容量と寄生抵抗で決まる時定数(RC)が、変調器の速度を制限する。
もう1つの特長は、変調器の外形寸法が比較的小さいことだ。必要とされる長さは50μm前後である。リング変調器の直径10μmよりは大きいものの、シリコンフォトニクスとしては十分に許容できる寸法に収まっている。
(後編に続く)
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