情報通信研究機構(NICT)らの研究グループは、超電導人工原子と光子の相互作用によって生じる、極めて大きなエネルギー変化(光シフト)を、実験によって初めて観測した。
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所の吉原文樹主任研究員と仙場浩一上席研究員らの研究グループは2018年5月、NTTやカタール環境エネルギー研究所(QEERI)、東京医科歯科大学および、早稲田大学と共同で、超電導人工原子と光子の相互作用によって生じる、極めて大きなエネルギー変化(光シフト)を実験によって初めて観測したと発表した。
吉原氏らの研究グループはこれまで、共振回路中の電磁場と極めて強く相互作用できる超電導人工原子の研究を行ってきた。2016年には、物質と光の相互作用が極めて強い「深強結合領域」と呼ばれる領域を実現し、分子のように安定した状態が存在することを明らかにしてきた。
ただし、深強結合領域で生じるLamb(ラム)シフトやStark(シュタルク)シフトといった光シフトの大きさについては、これまで系統的な実験結果が報告されておらず、共同研究したQEERIのSahel Ashhab氏らによる理論的な研究にとどまっていたという。
研究グループは今回、アルミニウム製超電導人工原子とLC共振回路の深強結合回路を作製し、二重共鳴分光法を用いて実験を行った。この結果、人工原子でこれまで知られているシフト量の約100倍となる光シフトを観測することに初めて成功した。これらの観測値は、Ashhab氏らが導出した論理曲線とほぼ一致しているという。
特に、Lambシフトの大きさは、最初に水素原子で確認されたエネルギーシフト量に比べ6桁(約218万倍)も大きいことが分かった。Starkシフトも、共振回路中に光子が1個あるだけで超電導人工原子の励起状態と基底状態が反転するほど、桁違いに大きいという。
今回の測定結果は、相互作用の強さや光子数を制御すれば、超電導人工原子のエネルギーを自在にコントロールできることを示したものだという。これらの成果をベースに、量子状態の精密制御や量子通信の長距離化につながるノード技術への応用などに取り組む予定だ。
今後、この状態を用いた新たな量子もつれ生成方法などの研究を展開する予定とする。なお、今回の共同研究では、NICTと早稲田大学が実験と解析を、NTTは試料作製を、QEERIと東京医科歯科大学が理論解釈を、それぞれ担当した。
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