光伝送は、われわれの生活にとって身近な技術である。今回は、第1回の続きとして、光伝送技術が使われている分野を紹介する。
光伝送技術が大量に活用されているのは、データセンターである。クラウドコンピューティングを運営するハイパースケールデータセンターは数十万台以上のサーバを有し、LEAF/SPINEというスイッチ群を光ファイバーで接続した、FAT Treeというノンブロックネットワークを実現している。
データセンターの広大な建物の中にこのネットワークを構成するために、膨大な本数のシングルモード光ファイバーが敷設されている。また、最近は、地理的に分散された複数個のハイパースケールデータセンターを接続し、一つのデータセンターとして機能運用するためにデータセンター間相互接続通信(DCI:Data Center Interconnect)が注目されている。ここでは、数十Tビット/秒(bps)から100Tbpsの低価格、小型、低消費電力の相互接続が要求されている。
近年注目されているのがスマート工場での応用である。工程や機械の自動化、CADやCAMとの連携や、「見える化」の推進などにより工場内で取り扱うデータは膨大なものとなっている。Value ChainをITでシームレスに接続し、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を用いて、短期間での製品化や低コストでの多種少量製造の実現を目指す、いわゆる「第4次産業革命(インダストリー4.0)」では、工場内のあらゆるものをデータ化し、収集し、処理し、リアルタイムで利用することが求められている。既に工場に光LANを導入しているところも多いが、今後はエッジコンピューティングを活用する高度な光ファイバーネットワーク構築が必要となると考えられる。
今後も自動運転など豊富なデータやコンピューティングパワーを利用したイノベーションを実現するために光伝送技術が活躍していくことを期待している。
光通信ネットワークでは電波や同軸ケーブル、電話線などを光ケーブルに置き換えたが、それ以外にもさまざまな応用分野で電気配線を光配線に置き換えることが行われている。なお、ここでいう「光配線」の定義は、100m程度以下の電気配線を置き換えるものとする。
光ファイバーケーブルは、同じデータ伝送速度であれば電気ケーブルより細くて軽く、輻輳(ふくそう)する配線に使用されている。スーパーコンピュータやデータセンターの100m程度のラック間配線は光化されている。さらに、ラック内の10m以下の装置間も、インタフェースの高速化とともに光ケーブルを用いたものが増えてきている。
現在、これらの分野では主に50μm(あるいは62.5μm)の石英ガラスコアを有するマルチモード光ファイバーが用いられている。マルチモード光ファイバーは伝送距離が短く、10Gビットイーサネット(10GbE)の規格では、300m以下である。しかし、光の入射が容易で低コストを実現できるので100m程度以下の伝送に向いており、その敷設量は、2015年で年間300万キロ以上といわれている。
また、光送受信モジュールとファイバーを一体化した構造のアクティブ光ケーブル(AOC:Active Optical Cable)が多用されている。AOCは両端が電気コネクターであり、光伝送の専門知識が無くても光伝送を利用できる。さらに、光伝送の仕様を独自に決められるためコスト、消費電力などで差別化努力が行われている。
光ファイバー伝送には、細線軽量だけではなく、電磁雑音の影響を受けないという特長もある。ガンマ線の照射にも強く、航空機、船舶や衛星などに使用されている。
最近では車載への応用が特に注目されている。自動車で取り扱う情報量の増大や高度化に対応したノイズに強い高速通信と、ハーネスの軽量・省スペース化が課題となっているからだ。
車載で注目されているのがプラスチック光ファイバー(POF:Plastic Optical Fiber)である。プラスチック光ファイバーは直径約1mmのプラスチックのコアを持ち、伝送距離は短いが、柔軟で曲げやすく、低価格でほこりに強いという特長がある。既にいくつかの標準規格があるが、より高速な伝送を実現する世界標準規格が決められようとしている。
工場内においてもロボットやシーケンサーに雑音環境に強い光ファイバーが導入されている。大型高速コピー機や印刷機の内部配線に光ファイバー配線が使用された例もある。大型ディスプレイや医療機器への導入例もある。このように、さまざまな応用で光配線が使用されその範囲を拡大している。
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