Appleはなぜ、多大なコストが掛かるにもかかわらず大規模な半導体設計を自社で行おうとしているのだろうか。そして、既に市場での実績を築いている半導体企業と同等以上の性能を備えたICを設計できるのだろうか――。半導体を自社設計することは、どう考えてもリスクが大き過ぎる。
Appleはなぜ、多大なコストが掛かるにもかかわらず大規模な半導体設計を自社で行おうとしているのだろうか。そして、既に市場での実績を築いている半導体企業と同等以上の性能を備えたICを設計できるのだろうか――。半導体を自社設計することは、どう考えてもリスクが大き過ぎる。
だが、Appleは2008年の春に、DEC(DigitalEquipment Corporation)のArmベースのマイクロプロセッサ「StrongARM」の開発に特化した、ほぼ無名のプロセッサ設計会社PA Semiの買収を発表した。当時Appleは、この買収を「自社製品のさらなる差別化に向けた戦略」と説明していた。さらにその後、Appleが、ArmベースのCPU「Hummingbird」を販売する別のプロセッサ設計会社Intrinsityを買収するといううわさが出始める。Appleは2010年4月に、Intrinsityを買収したことを認めた。
故Steve Jobs氏は2010年1月27日に開催したイベントで登壇し、タブレット端末の「iPad」とAppleが設計したSoC(System on Chip)「A4」を発表した。筆者はその基調講演の1週間前に自身のブログに投稿した記事で、iPadとA4の発表が近いだろうと予想し、iPadにはiPhoneと「MacBook」の間くらいの性能を持ったプロセッサが必要だと指摘した。また、筆者は同記事の中で、「自社のデバイスとアプリケーションに特化したブロックでプロセッサを自社設計したらどうなるのだろうか」という問いを投げかけている。
予想通り、Appleは同社にとってまったく新しい半導体分野の取り組みとなるAシリーズの開発を進めていることが明らかになった。
筆者は共著したEE Timesの記事の中で、A4はSamsung ElectronicsのArmベースの最新SoCであった「S5PC110」とブロックレベルでの類似性があると指摘した。さらに、A4とS5PC110は、同一のArm CPUを搭載していることも判明した。
A4は差別化されたSoCではなかったのだ。PA SemiとIntrinsityの買収から日が浅かったことと、Samsung ElectronicsがS5PC110の宣伝用写真を公開した時期(2009年)を考えれば、そう結論付けざるを得ない。
自社製のSoCを発表後、Appleの次期マイルストーンとなったのは「A6」だった。A6には、Appleが自社設計したCPUが搭載されていた。これは、同社にとって大きな成果だったといえる。
技術解析サービスを提供するカナダのChipworksは当時、「このアーキテクチャは、手作業でレイアウトされたようだ」とコメントしている。A6によって、Appleの半導体グループのコミットメントが証明された。
続く「A7」では、Appleが「Secure Enclave」と呼ぶセキュリティアーキテクチャを導入して、「TouchID」センサーの指紋データの保存と処理を行っている。この他にも、AppleはISP(Image Signal Processor)や自社製のモーション・コプロセッサなども統合している。
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