IoTデバイスが音声コマンドコントロールと低消費電力の両技術を求めるようになり、DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunication)技術が再び脚光を浴び、大きく飛躍する可能性を秘めている。
Voice(音声)+IoT(モノのインターネット)=DECT。
それは「e=mc2」という有名な公式に比べれば一般的には重要ではないかもしれない。しかし、IoTデバイスが音声コマンドコントロールと低消費電力の両技術を求めるようになり、DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunication)技術が再び脚光を浴び、大きく飛躍する可能性を秘めている。DECTは、かつて欧州を中心にコードレス電話の標準規格として発展しつつも、その後、携帯電話の普及と共に影をひそめていた。
DECTの将来性を考えることになるきっかけは、「なぜWi-Fiの利用を基本とするAlexa(=AmazonのAIアシスタント)の通話品質がそんなに悪いのか」という問いかけであった。緊急時にはどうだろう? IoTデバイスはWi-Fiを経由して音声を現実的に利用することができるのだろうか?
この疑問は、ホームヘルスケアモニタリングや音声を必要とする分野全般に膨らんだ。緊急時に限らず通常時でも使えるだろうか? 確実かつフラストレーションなく利用できるのだろうか? 家庭内、特に音声を扱うデバイスや制御はIoTの必須技術であり、そのためには他の無線インタフェースを使うことが必要ではないか、と考えた。
全ての論点は素朴な疑問から始まった。Amazon Echo Dot2を複数台使用し部屋間の内線通話はWi-Fi経由でうまく働く。音節が若干、とれないところもあるが、会話そのものはごく順調に行える。ところがAlexaを外線通話で使おうとすると問題が発生する、接続性が非常に悪いのだ、なぜだ?
Echo Dot 2は他のEcho Dot 2とWi-Fi経由で通話する際にコーデックが最適化されるが、家庭用ルータとはこの機能が働かないことが原因だと分かった。ある程度の外線通話品質を保つためには、仮想VoIP PBX service スキルにサインアップするか、34米ドルでAmazon Echo Connectを購入し全てのAlexaデバイスを家庭用電話回線につなぐことが必要だ。
これを確実にするためにはWi-FiのQoS(Quality-of-service)を変更し、音声に対する優先順位をビデオやオーディオストリーミングなどの多少のパケットロスが許容されるものより高くすることが必要になる。しかしながらそのための処理がオーバーヘッドを増やすこととなり、全てのWi-Fiデバイスが最新のスタンダードに準拠しないという状況を生み出した。さらにWi-Fiのハードウェアは高速データ通信用に設計されていて、消費電流を下げるために各種のスリープモードを入れるとハードウエアが相対的に高価になってしまう。
一方、DECTは特に高品質な通話を低消費電力で行うために設計され、(データ通信そのものは可能だが)高速データ通信は得意ではない。欧州では1880MHzから1900MHz、米国ではパブリックセーフティや政府システムとの干渉を避けるため若干高い1920MHzから1930MHzの帯域が割り当てられている。子機は全て親機に接続され、親機は電話回線につながっている。
企業向けとしては今でも広く使われているものの、“そこそこ使える”Wi-Fi経由での通話やモバイルフォンの普及によってDECTは家庭内での居場所を失った。とはいえ、Wi-Fiの場合の150〜200ミリ秒に対して10ミリ秒という遅延の短さはDECTの大きな利点の一つである。
低消費電力と低遅延が大きなウリであるDECTを低消費電力、高品質な音声コマンドコントロールに対応させ、IoTデバイスが効率的かつ確実に通信することを目標に、2013年にはULEアライアンスが設立されたことは自然な流れかもしれない。この動きは結果として未来を見越したものになり、その後Amazon AlexaやGoogle HomeがIoTと並行して立ち上がることになる。
目標とするアプリケーションはホームセキュリティ、エネルギー制御、ホームオートメーション、メディカルやフィットネス用ウエアラブル機器、緊急連絡先の確保などである。これらの市場に向けてアライアンスでは物理層(PHY)より上位レイヤーに変更を行い、バッテリー寿命を延ばすために親機からビーコンを送る間隔および、スリープ時間を長くし、セキュリティを64ビットの暗号化から128ビットのAESに変更。そして各ノードが親機(この場合 コンセントレーターと呼ばれる)と直接つながるようスター構成をとるようにした。外部または他のノードとの通信は全てコンセントレーターを経由して行われる。
DECTの特長的な機能は広い到達レンジであり、ETSIが定義したDECTの規格がその基になっている。ULE対応デバイスは屋内では70〜100m、屋外では最大500mのレンジをカバーする。最大500Kビット/秒のデータレートを使った双方向の音声通話や低解像度のビデオ伝送が可能である。
ネットワーク層の変更はULEアライアンスのHome Area Network FUNctional(HAN FUN)プロトコルに沿って行われ、IPv6(6LoWPAN)への対応も可能だ。HAN FUNはバイナリープロトコルであり、プロトコル定義、デバイス定義、そしてデバイスマネージメントまでカバーする。ZigBeeやZ-Waveなどと同様、HAN FUNはオブジェクト指向のアプローチで、煙を探知したというようなコマンドを送信できる。HAN FUNはトランスポートベースのプロトコルであるULEの上位に位置する。
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