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化合物レーザーをシリコンにモノリシック集積する試み(前編)福田昭のデバイス通信(166) imecが語る最新のシリコンフォトニクス技術(26)(1/2 ページ)

本シリーズも、いよいよ最終章となる。最後は、シリコン基板に、化合物半導体レーザーをモノリシックに集積する試みを、前後編にわたって解説する。

» 2018年10月12日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

シリコン基板に化合物半導体を成長させる

 半導体デバイス技術に関する国際会議「IEDM」では、カンファレンスの前々日に「チュートリアル(Tutorial)」と呼ぶ技術セミナーを開催している。2017年12月に開催されたIEDMでは、6件のチュートリアルが開催された。

 その中から、シリコンフォトニクスに関する講座「Silicon Photonics for Next-Generation Optical Interconnects(次世代光接続に向けたシリコンフォトニクス)」が興味深かったので、その概要をシリーズでお届けしている。講演者は、ベルギーの研究開発機関imecのJoris Van Campenhout氏である。

 なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。

 前回は、光送受信器システムのリンクバジェットを計算した事例をご紹介した。今回は、化合物半導体レーザーをシリコンダイ(シリコン基板)にモノリシック集積する試みを前後編でご説明する。

 本シリーズの第18回「半導体レーザーとシリコン光導波路を接続する技術(前編)」で述べたように、シリコンフォトニクスの光源である半導体レーザーは、材料に化合物半導体を使う。シリコン基板に化合物半導体材料を成長させることは、基本的に困難である。そのため、現在のシリコンフォトニクスにおける研究開発では、化合物半導体の基板に成長させた化合物半導体レーザーのダイを、シリコンフォトニクスのシリコンダイとアセンブリ技術によってハイブリッド接続する手法が主流となっている。

 それでも理想的には、シリコン基板に半導体レーザーもモノリシックに集積できることが望ましい。そこで基礎研究段階ではあるものの、シリコン基板に化合物半導体の薄膜を成長させる試みがなされている。

シリコンと化合物の界面で発生した欠陥の成長を止める

 シリコン基板に直接、化合物半導体の薄膜を成長させると何が起きるだろうか。シリコンと化合物半導体では格子定数(結晶の最小単位を形成する大きさ)が違う。このズレによる応力を緩和するために両者の界面から化合物半導体の薄膜内部に向け、膨大な数の結晶欠陥が発生し、成長する。この結晶欠陥が結晶の品質を悪化させる。このため、化合物半導体の薄膜は光デバイスや電子デバイスなどとして正常に機能しなくなってしまう。

 そこで、発生した結晶欠陥の成長を止めることで、結晶欠陥の存在する部分を界面付近に閉じ込めることが試みられている。

 具体的には、シリコン基板の表面付近に極めて薄い絶縁膜を形成し、平行な直線の溝を非常に細かい間隔で掘る。化合物半導体は、溝内のシリコン表面から成長する。すると、発生した面状の結晶欠陥(貫通転位(スレッディング・ディスロケーション))は斜め方向に成長するので、浅い溝の側壁にぶつかると成長が止まる。ただし溝と平行な方向に成長した欠陥(積層欠陥(スタッキング・フォールト))は、溝の側壁にぶつからないので、成長し続けてしまう。それでも、結晶欠陥の密度そのものは、大幅に減少する。

 実際に、シリコン(Si)基板にガリウム・ヒ素(GaAs)を成長させるときに、幅が100nm以下の溝を形成することで、全ての貫通転位の成長が止まることが確かめられている。なおこの手法を「アスペクト比トラッピング(Aspect Ratio Trapping)」と呼ぶ。

直線状の溝の列を平行に形成して結晶欠陥の成長を止める「アスペクト比トラッピング(Aspect Ratio Trapping)」技術。左上は本技術の概念構造図。下は、実際にシリコン(Si)基板上にガリウム・ヒ素(GaAs)を成長させ、貫通転位の成長を止めた薄膜の断面を電子顕微鏡で観察した画像(GaAsとSiの界面でGaAs側に見える黒い影が貫通転位、溝の幅は40nm)。右上はシリコンと主な化合物半導体の格子定数(横軸)とエネルギーバンドギャップ(縦軸)の関係。出典:imec(クリックで拡大)
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