産業技術総合研究所(産総研)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、窒化ガリウム(GaN)ダイオードとシリコン(Si)整合回路からなるハイブリッド構造の整流回路を開発し、マイクロ波から直流への電力変換動作を初めて実証した。
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループの岸川諒子主任研究員と堀部雅弘研究グループ長および、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の川崎繁男教授は2018年11月、窒化ガリウム(GaN)ダイオードとシリコン(Si)整合回路からなるハイブリッド構造の整流回路を開発し、マイクロ波から直流への電力変換動作を初めて実証したと発表した。宇宙機内におけるセンサーへの無線給電を可能にする技術だという。
宇宙機には、ガスセンサーや振動センサーなど、各種センサーが多数取り付けられている。これらセンサーを駆動する電力は電力線で供給されており、電力線の重さや耐久性、設置場所の柔軟性などが課題となっていた。
産総研とJAXAは今回、宇宙機内に配置されたセンサーへ無線給電を行うため、GaNダイオードとSi整合回路を混成した「HySIC(Hybrid Semiconductor Integrated Circuit)」と呼ぶ整流回路を共同で開発した。空間を伝わるマイクロ波を直流電力に変換する整流回路に、Siに比べバンドキャップの広いGaNを採用することで、宇宙線に対する耐性を高めた。マイクロ波を効率よくGaNダイオードに入力するための整合回路には、量産性に優れたSi回路を用いた。この部分はほとんどが配線で、宇宙線による誤動作の影響が極めて小さいためだ。
整流回路をハイブリッド構造にすることで、小型で軽量、低コストが可能になるとみている。ただ、HySIC整流回路の電力損失を少なくするためには、マイクロ波領域におけるGaNダイオードのインピーダンス特性を正確に測定し、その特性に適合するSi整合回路を設計する必要があるという。
そこで産総研は、マイクロ波領域におけるGaNダイオードのインピーダンス特性を高い確度で測定できる技術を新たに開発し、JAXAが保有する回路設計技術と組み合わせた。
GaNダイオードのインピーダンス特性を測定するために用いた回路には、測定を行うコネクターとGaNダイオードとの間に伝送線路がある。ここにマイクロ波を伝播させる時に損失と位相変化が生じるという。そこで今回、伝送線路特性を補正するためのデバイスを用いて、伝送線路による損失と位相変化を補正した。これによって、GaNダイオード単体のインピーダンス特性を正確に測定することが可能となった。
今回は、測定したインピーダンス特性に基づき、出力電力が100mW級の時にGaNダイオードとSi整合回路のインピーダンスが整合状態となり、電力変換効率が最大となるようにSi整合回路の基本パターンを設計した。電力変換効率に対する入力電圧変動の影響などをシミュレーションした結果も、Si整合回路パターンの設計に反映させた。
実験結果から、マイクロ波の入力電力に対する直流の出力電力は、良好な電力変換特性を示すことが分かった。今回得られた100mWの電流電力は、宇宙機内に設置された8個の温度センサーを動作させることができるレベルだという。
研究グループは今後、HySIC整流回路のさらなる高性能化を目指すとともに、宇宙機への搭載に向けた実用化研究に取り組む。なお、今回の研究成果は、地上におけるセンサーネットワークへの電源供給やEV(電気自動車)の充電にも利用できるとみている。
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