産業技術総合研究所(産総研)は2018年7月、開発した拡散焼結技術を用い、80mm角サイズのプロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC:Protonic Ceramic Fuel Cell)を作製することに成功したと発表した。
産業技術総合研究所(産総研)は2018年7月、開発した拡散焼結技術を用い、80mm角サイズのプロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC:Protonic Ceramic Fuel Cell)を作製することに成功したと発表した。
PCFCは理論的に燃料を100%利用することができ、発電効率として75%を実現できる可能性があるという。セラミックス材料で構成される固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)に比べて、発電効率は20%以上も高くなりCO2削減効果が期待できる。しかも、PCFCは低温域でも十分なイオン導電率が得られるため、SOFCに比べて発電作動温度を下げることが可能である。このため、耐熱材料などのコストを節減できるメリットもあるという。
ただ、プロトン導電性セラミックスは焼結に1700℃以上の高温焼成が必要となる。焼結温度を下げるために添加助剤を用いることもあるが、この添加助剤がプロトン導電性セラミックスの粒界に偏析をし、絶縁性が低下するなど課題もあるため、これまでは直径が30mm程度のPCFCしか作製できなかったという。
研究グループは今回、バリウム(Ba)系ペロブスカイト材料の中でCO2との反応性が極めて低いBaZrO3系組成を電解質材料として用いた。また、実用サイズの燃料電池セルを実現するために、拡散焼結技術を新たに開発した。開発した技術を用いることで、焼結助剤を含む燃料極支持体と薄層電解質を共焼成し、その過程で遷移金属を優先的に電解質中に完全固溶させることが可能となった。これにより、遷移金属が粒界偏析をしないという。
BaZrO3系組成の電解質材料は、燃料電池が作動している環境で電子リークが生じる。そこで今回、電解質層上に電子リークブロック層を積層し、電解質層のCO2耐久性と電子リークの抑制を両立させた。BaZrO3系電解質の開回路起電力は、従来の小さいコイン型セルで0.93〜0.99V。これに対し、開発した実用サイズの発電セルでは1.06Vが得られた。これは理論値の93%近いという。
試作した50mm角の平板単セルを評価した。定格作動電圧が0.85Vの場合、600℃と700℃の作動温度では、実電流値がそれぞれ、5.3A(出力値は4.5W)と6.0A(同5.1W)となった。これらは、CO2耐久性を有するPCFCで初めての実証データになるという。実用サイズの従来型SOFCは、作動温度700〜750℃、作動電圧0.85Vで電流密度は0.2〜0.3A/cm2である。開発したPCFC発電セルでは、作動温度が100℃低い600℃でも、0.85V付近の電流密度は0.3A/cm2となった。
今回の研究成果は、産総研無機機能材料研究部門機能集積化技術グループの藤代芳伸研究グループ長、山口十志明主任研究員、島田寛之主任研究員、山口祐貴研究員、水谷安伸客員研究員(東邦ガス)らを中心とした産学官連携によるもの。パナソニックやノリタケカンパニーリミテド、ファインセラミックスセンター、東北大学、横浜国立大学、宮崎大学との連携に加えて、東京ガスや東邦ガスの協力も得た。
研究グループは今後、極めて効率が高いPCFCの実証に向けて産学官の連携を強化する。さらに、開発した技術は水蒸気電解反応による純水素製造などにも広く応用し、再生可能エネルギーと組み合わせた電力ネットワークや、水素活用電力ネットワークの構築を目指すことにしている。
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