産業技術総合研究所とNTT物性科学基礎研究所は2018年2月2日、電流の最小単位である電子を1個単位でオン/オフ制御できる単一電子デジタル変調技術を共同で開発したと発表した。
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門量子電気標準研究グループとNTT物性科学基礎研究所は2018年2月2日、電流の最小単位である電子を1個単位でオン/オフ制御できる単一電子デジタル変調技術を共同で開発したと発表した。極微小交流電流の精密計測につながる技術で、次世代半導体素子の開発やナノ構造中で生じる物理現象の解明などの基礎研究への貢献が期待される。
スピントロニクスを応用した次世代素子の開発などでは、素子性能の評価や物理現象の観測のために、ナノ構造を流れるアトンアンペア(aA/10-18A)やフェムトアンペア(fA/10-15A)単位の極微小電流を精密に計測する必要がある。既存の電流計測技術では、周波数帯域の交流の計測では不確かさが大きくなるなどの課題があり、正確で信頼できる基準交流電流の発生技術が求められている。
電流は、1秒間当たりに流れた電子の個数で決まるため、「電子1個1個制御する技術は極めて正確で信頼できる基準電流を発生する最良の手法」(産総研)とし、基盤技術の開発を実施してきた。ただ、これまでは、一定周期で電子を1個ずつ送り出し、極めて正確な直流電流を発生させる技術を中心に開発だったが、今回、周波数範囲が直流からメガヘルツの交流電流を発生させることを目的に開発を行った。
直流電流は、電子を一定の周期で1個ずつ送り出すことで、正確に発生させられる。一方で、正弦波や方形波など交流成分を含む電流を発生させるには、電流の振幅を時間的に変化させる必要がある。これを電子1個1個の制御で行うには、電子の時間的な分布を制御することが求められる。
そこで、研究グループは、デジタル信号の1と0を電流のオンオフなどで表現する手法である「デジタル変調」に着目。デジタル変調ではデジタル信号の各ビットのデータ1と0を電気信号のオンとオフに対応させる。そのため、適切なビットパターンでオン信号の密度分布を変化させると、任意の波形を発生できることになる。今回開発した単一電子デジタル変調技術は、この原理を電子1個の制御に応用して、電子の密度を時間的に変化させ、任意波形の交流を発生させることに成功した。
研究グループでは、ナノ加工技術を用いて、電子1個1個を制御できる単一電子素子を作製。作製した素子は、半導体の基板表面に微細加工で作製した電極に電圧をかける電気的な制御により、1個ずつ送り出せる。この素子をデジタル信号の1と0に「送り出す」「送り出さない」を対応させて制御し、電流パルスによるデジタル信号を実際に発生させた。「1MHzまでの広い周波数範囲で交流電流を発生できることも実験で確認できた」(産総研)
研究グループでは今後の予定として「単一電子デジタル変調におけるビットエラーは発生した電流の精度を決める要因であり、今後は、ビットエラーの低減や評価の研究開発を行い、発生した電流の振幅の精度を評価する。また、動作速度を向上させて電子1個を制御する周期を短くすることで、発生できる電流量を増加させることを目指す」としている。
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