話を米州メモリ市場に戻す。同市場をもう少し過去にさかのぼりながら動向をグラフ化すると、曲線は「規則的な動き」とは言い難いものの、概ね4年に1周期の山と谷が発生するサイクルが見て取れる。
2013年に市場のピークが形成されていれば、と言いたいところだが、この期間を除けば、100%超の「山」と50%未満の「谷」が形成されている。これに従えば、2019年は前年比マイナスに沈む確率が極めて高い、と言わざるを得ない。2018年9月の実績値が多少飛び跳ねていても、むしろ2018年10月分の出荷を先取りしているのではないか、という懸念がつきまとう。2017年中盤に100%増超のピークをつけている以上、2019年のボトムはマイナスを覚悟する必要があるだろう。
事実、業界では「Samsungが平澤(ピョンテク)工場の増設計画を延期した」「西安工場第2棟への投資も延期」「同社の設備投資計画は30%前後引き下げられる」などと騒がれており、同社の投資再開はいつになるのか、メモリ市況はこの先どうなるのか、世界中の関係者が注目する状況にある。半導体製造装置メーカーの話によれば、直近の受注額が前年比50〜60%ダウンという装置もあるようだ。しかし、ここに今後の見通しを占う要素が多く盛り込まれている、と見ることもできるだろう。
SamsungはDRAM市場、NAND型フラッシュメモリ市場、いずれでも50%近いシェアを持ち、2位以下を大きく引き離す存在である。メモリは典型的な汎用製品なので、ユーザーとしてはベンダーを1社に絞らず、2社以上の複数社から購買することで、調達リスクを抑えることが通常である。言い換えれば、50%近いシェアを持つ同社は全ての大手ユーザーに食い込んでおり、大手ユーザー各社の今後の調達計画を高い精度で確認することができるのだ。
そのSamsungが設備投資に急ブレーキをかけたことで、今後のメモリ需給バランスはどうなるのか、DRAMやNANDフラッシュの単価動向はどうなるのか、全ての関係者がさまざまな推察を始めたわけだが、最も正確な情報を集められるのはSamsungに他ならない。同社は設備投資に急ブレーキをかけても、2位以下に差を詰められる心配がないので、自社のアクセルやブレーキの踏み加減で、需給バランスをコントロールしようとしているようにすら見えてくる。
今後の需要を予測する上で、クラウドの端末側とインフラ側に分けて考えてみよう。スマホやPCなどのクラウド端末向けメモリ需要にも大きな波や変動要因があるが、いずれも台数成長が見込めず、機器1台あたりのメモリ搭載容量の増加が見込めるかどうかが重要視される。メモリ単価が下がれば搭載容量が増える、という理屈はあるが、現時点で大幅な需要増を期待できる要因は乏しい。Intelの決算内容を見ると、同社のClient Computing Groupの今期9カ月間の売上高は前年比8.5%増に留まっているのに対し、Data Center Groupは同25.5%増の伸びを記録している。やはりサーバ/データセンターといったインフラ側の動向が大きなカギを握っており、この傾向は2019年も継続される、と筆者は考えている。
総務省によれば、わが国のブロードバンドサービスの総ダウンロードトラフィックは年率50%前後の伸び率を記録しているという。世界市場においてもデータ通信量は年率約40%伸びているという調査会社の報告もあり、これが国内外市場における実態と見て良いだろう。前述の米国系の大手クラウド関連企業各社は、この市場をけん引する立場にあり、2016〜2017年にかけて前年比20〜30%増の設備投資を行ってきたが、2018年前半は同70%増というかなり積極的な投資を行ったようだ。
データ通信量の伸びと大手各社の設備投資の増加分を、そのまま比較して良いかどうか議論の余地はあるが、米州メモリ市場のグラフのサイクルを見る限り、需給バランスの変動が市況を形成している、と見て間違いないだろう。問題は、このサイクルのボトムがいつ訪れるか、ということだ。
Samsungの経営者になったつもりでこれを考えると、「ボトムは深く、サイクルは短めに」という発想でメモリ供給戦略を立てているのではないだろうか。少なくとも昨今の設備投資に対する急ブレーキの踏み方を見ると、そのような市況を誘導しようとしているように思えてくる。遅くとも2019年中盤(6月前後)までにボトムを迎え、2019年後半からは投資を再加速させる、というのが筆者の勝手な予想である。もちろん、これが当たるかどうかは分からないが、関係各社の話のネタになれば幸いである。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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