Foxconn Technology Group/鴻海(ホンハイ)精密工業(以下、Foxconn)は、米国ウィスコンシン州で高度な液晶ディスプレイ(LCD)を開発する計画を発表したが、同社に詳しい人が抱く懐疑心はさらに強まったに違いない。
Foxconn Technology Group/鴻海(ホンハイ)精密工業(以下、Foxconn)は、米国ウィスコンシン州で高度な液晶ディスプレイ(LCD)を開発する計画を発表したが、同社に詳しい人が抱く懐疑心はさらに強まったに違いない。
20年以上も前、筆者が業界紙「Electronic Business」で働いていた頃、編集者の一人が数カ月かけて、Foxconnの重役たちとのインタビューの段取りをつけた。その編集者は台湾にあるFoxconnの本社を訪ねたが、そこでインタビューは行われない旨を告げられた。
それから何も変わっていない。2019年1月29日、報道各社はFoxconnが米国での製造計画を縮小すると伝えた。研究開発(R&D)に注力するため、以前から提案されていた「キャンパス」ではなく、「テクノロジーハブ(技術拠点)」を建設するという内容だった。テクノロジーハブのスタッフはほとんどがエンジニアや科学者で構成されると伝えられた。
ところが2019年2月1日、Foxconnはその決定を覆し、ウィスコンシン州にGen 6 LCD(第6世代の液晶ディスプレイ)の工場を建設すると発表した。およそ1万3000人分の製造業の雇用が創出されるという。
筆者はいつでも懐疑的であると考えてくれていい。サプライチェーンの観点から、米国ベースのLCD工場がビジネスとして成り立つはずがない。
LCDは最も古く、最も確立された低コストディスプレイ技術の一つであり、幅広い用途に用いられている。TV用のパネルであれば2型から60型まで容易に対応可能だ。製造面での課題も、過去30年間でほとんど解決されている。改善の余地は常に存在するものの、最近ではLCD技術が飛躍的に発展したという話はないはずだ。
加えて、Foxconnは既に日本と中国にLCD製造施設を持っている。同社は2016年にシャープの大半の株式を購入した。
日本は数十年にわたりLCD製造の中心地だったが、韓国がフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造インフラに多額の資金を投入したことから、ディスプレイの覇権は韓国が握った。Samsung ElectronicsとLG Electronicsは世界最大のLCDメーカーの地位を維持しているが、最近では中国メーカーがLCDのトップメーカーに加わりつつある。
近年、中国を除いては、新たなLCD製造施設や設備への投資は縮小される傾向にあった。
米国はLCDを快く受け入れる土地ではない。2000年代始め、東芝は米国で液晶TVを製造しようとしたが、失敗に終わった。2015年、東芝はテレビ製造事業から完全撤退し、その理由として米国における価格競争を挙げた。
LCDは依然としてスマートフォンやタブレット、TV、大型スクリーン向けとして主流だが、ディスプレイ市場では、有機ELディスプレイ(OLED)などの、より新しい技術に移行しつつある。OLEDは、LCDに比べて低消費電力で、フレキシブル基板にも対応しやすいなど、利点も多い。
Foxconnのウィスコンシン工場建設計画の背景に、政治的な圧力があったのは明らかだ。Foxconnの最大の顧客であるAppleは、自国(米国)で製品を製造していないとの批判を受けてきた。
ウィスコンシン州と米政府は、Foxconnが米国内に工場を建設するに当たり、多額のインセンティブを提供した。推定40億米ドルの減税が確保されたともいわれている。このような多額の減税にあらがえる企業などあるだろうか。
Foxconnが、米国での製造計画について、縮小から一転し拡大すると発表した裏には、こうした減税や政治家とのつながりがあったのだろう。だがそれは、ビジネス/テクノロジー業界や、ウィスコンシン州住民を困惑させている。今回のFoxconnの決定には何の保証もない。工場の建設には長い時間がかかる。その間、Foxconnが再び意見を翻す可能性も十分に考えられるのだ。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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