今回から、「日本のベンチャーエコシステム」を育てるためにはどうすればよいかに焦点を当てていく。そのために、まずはベンチャーエコシステムの構成要素と、同エコシステムに関わる3つの企業タイプを説明する。さらに、ここ10年ほどで変化の兆しを見せ始めた日本のベンチャー企業についても触れたい。
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すっかりご無沙汰してしまいましたが、読者の皆さまは、いかがお過ごしでしょうか。新年度となり、「令和」という新たな元号も決まると、やはりフレッシュな気持ちになりますね。本連載も、ここから一気に加速していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
さて、今回から、「日本のベンチャーエコシステム」を育てるためにはどうすればよいかに焦点を当てていく。
そのためには、日本のベンチャーエコシステムが現在、どういった状況にあるのかを知る必要がある。そこで、まずはベンチャーエコシステムの構成要素を振り返ってみよう。
ベンチャーエコシステムの構成要素にはいろいろなプレーヤーがいるが、最も中核となるのは、「ベンチャー企業」と「ベンチャーキャピタル」だろう。
ベンチャー企業は、起業家が立ち上げる他、大企業や大学、研究機関からスピンアウトするケースも多い。そこに投資をするのがベンチャーキャピタルだ。そのベンチャーキャピタルには、投資家や企業がLP(リミテッドパートナー)としてLP投資を行っている。
ベンチャー企業の“出口(エグジット)”には、主に3つのパターンがある。まずは株式公開。いわゆるIPO(株式初公開)である。IPOの場合は通常、大きなキャピタルゲインがもたらされる。それから、M&Aだ。大企業に買収されるケースが多い。M&Aでは高い価格でベンチャーが買収され、キャピタルゲインを生む場合と、安い価格で売却せねばならずキャピタルロスになる場合がある。そして、ベンチャーが立ち行かなくなり、清算するパターンだ。
上の図で、赤いクエスチョンマークが入っている要素は、筆者が「日本では十分に機能していないのではないか」と感じている部分だ。逆に言えば、これらの部分をどうにか工夫すれば、日本のベンチャーエコシステムがもっとうまく機能していく可能性は十分にあるだろう。そのヒントを、これから探っていきたい。
ベンチャーエコシステムに関わる企業のタイプとしては、大きく3つに分けられる。
大企業
まずは、右肩上がりで業績を伸ばしてきた既存の大企業である。三菱重工や東芝のような財閥系の企業の他、古くはパナソニック、そしてソニーやシャープなど当初はベンチャーとして誕生し、その後大きく成長して、今では既存の大企業グループに属するようになっている企業もある。こうした大企業は、過去の延長でものを考え、事業部からの数字の積み上げで経営計画を作成する「成り行き予測型」の経営になっている場合が多い。2000年以降、伸び悩んでいる企業も少なくない。その結果、事業部門を切り離して独立させたり、他国企業に売却したりといった動きがよく見られたのは、読者の皆さんもご存じの通りである。
さらに、総じて、国内の中小企業やベンチャー企業を“上から目線”で見る傾向も感じられる。
ニューブリード
2つ目が、筆者が「ニューブリード」と呼ぶグループである。経営基盤に起業家精神がある企業だ。古くはソフトバンクや楽天、DeNAなどが、これに当たるだろう。特徴としては、過去のしがらみがあまりなく、成長のビジョンが明確で、トップダウンで新しい仕掛けを作っていることなどが挙げられる。グローバルを意識して事業展開を進めている企業も多い。成長ビジョンを実践するためには、組織や資金、人事などをダイナミックに変更することもいとわない「構造変革型」の企業といえる。
そうした性質からか、大手企業とは異なり、不況になっても急成長を遂げてきた企業が多い。しかし、これらの中には、あと20年間ほどビジネスを続けると「大企業」の枠に入っていく企業があるかもしれない。
ニューブリード予備軍
最後が、ニューブリード予備軍。いわゆるベンチャー企業である。
筆者が、日本でPTV(Pacific Technology Venture)というベンチャーキャピタルを運営していた1980年代の後半は、「第2次ベンチャーブーム」と呼ばれる時期であり、ベンチャー企業と付き合う機会が特に多かった。
だが、そのころのベンチャー企業は、筆者が「ではビジネスプランを教えてください」と伝えると、「それって一体、何ですか?」と尋ねられる、驚くべき状態であった。また、「われわれの技術は非常に優れています」と先方が主張する場合でも、少し調べてみると、米国で既に似たような技術が複数存在するといったケースもあった。当時のベンチャー企業は、技術的に特に光るものがそうあるわけではなく、ベンチャー企業の経営についても知識が少ない場合が多かった。
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