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日本のベンチャーエコシステムは、いかにして育てるかイノベーションは日本を救うのか(31)(2/2 ページ)

» 2019年04月05日 11時30分 公開
[石井正純(AZCA)EE Times Japan]
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変化の兆しが見え始めたベンチャー

 しかし、それから年月が経って、世に問える技術を持ったベンチャー企業が育ってきたのも事実だ。

 例えば、2009年ごろ、JETRO(日本貿易振興機構)がベンチャー企業のシリコンバレー進出を支援する事業を始めた。AZCAは、JETROから依頼され、その事業をサポートした。具体的には、シリコンバレー進出を狙うベンチャー企業に対して、現地、つまりシリコンバレーでサポートする役割を担っていた。言うまでもなく、「シリコンバレーに来れば道が開ける」というわけでは決してない。スタートアップがひしめき、常に競争が繰り広げられているシリコンバレーでは、ベンチャー企業に対する目は肥えている。質のいいベンチャーでなければ、チャンスをつかむことすら難しいのだ。

 JETROの事業で、シリコンバレーに進出する企業を選抜するため、中小機構(中小企業基盤整備機構)の支援も得て、日本で100社以上のベンチャー企業をスクリーニングする経験もした。玉石混交だが、中にはキラリと光る技術を持っていたベンチャーにも出会うようになった。例えば、本連載でも取り上げたVALUENEXなどがそれに当たる(ちなみにVALUENEXは、2009年に一度シリコンバレーに進出したが、その時はうまくいかずに撤退している。その後再び、製品をブラッシュアップして2014年にシリコンバレーに進出した)。このように、1980年代と比べると、ベンチャー企業の質は確実に向上している。

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)も、シード期の研究開発型ベンチャー(STS:Seed-stage Technology-based Startups)に対する事業化支援の助成事業を数年前からスタートした。現在、AZCAは、ウエルインベストメントと共同で、同助成事業の認定ベンチャーキャピタルに採択されている。EE Times Japanで取材した、磁気センサーを開発するマグネデザインも、NEDOから助成を受けた企業の一つである(関連記事:「磁気センサーの“異端児”がウェアラブルを変える」)。

 文部科学省には、大学発のベンチャーを育てるプログラム「START(Program for Creating STart-ups from Advanced Research and Technology)」がある。STARTには、大学などから申請されたシーズの中から有望なものを発掘し、事業計画の策定や事業育成を推進する「事業プロモーター」が設定されている。こうした事業プロモーターには、ジャフコやウエルインベストメント、Beyond Next Ventures、東京大学エッジキャピタルなどが含まれている。

 筆者も、STARTプログラムの推進委員会のメンバーとして、大学発ベンチャーを目にする機会が多いが、ぴかっと光る技術を研究開発しているとこも多い。そこを事業プロモーターが支援し、うまくいけばベンチャーキャピタルからの投資を得る、という仕組みだ。STARTには若手のベンチャーキャピタリストを育てるという意図もある。

 このように、最近では世界に問える技術を開発しているベンチャー企業が増えてきており、大変好ましいことだといえる。


「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。

AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。

2019年3月まで、静岡大学工学部大学院および早稲田大学大学院ビジネススクールの客員教授を務め、現在は、中部大学客員教授および東洋大学アカデミックアドバイザーに就任している。

2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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