UberやTeslaの事故など、自動走行モードにおける交通事故では、共通する1つの真実がある。「現実世界の状況の中で、人間のドライバーを機械のドライバーに置き換えることは、極めて難しいということが実証された」ということだ。
「Anytime, anyplace, anywhere!(いつでもどこでも!)」。Martini(イタリアの酒類製造会社)は、1980年代に制作したCMで、このキャッチフレーズを使用した。
自動運転車技術業界も、すぐにキャッチフレーズとして「いつでもどこでも」を採用した。同業界ではここ数年の間、「2020年までには、大量市場向けの自動車でレベル4、レベル5の自動運転を実現することができる」と主張するなど、かなり楽観的な見方をしている。
Uberが米国アリゾナ州テンペで自動運転車の走行試験を実施した際に発生した衝突事故で、Elaine Herzberg氏が死亡した他、Teslaのオートパイロット機能の誤用を原因とする事故でも、死者の数が増え続けている。この中に共通する1つの事実は、「現実世界の状況の中で、人間のドライバーを機械のドライバーに置き換えることは、極めて難しいということが実証された」ということだ。
魔法のような自動運転車の実現が、厳しい現実に直面すると、自動車メーカー各社は、自動運転に関連するコマーシャルや法的リスクについて、正確に評価しようとするようになった。例えば、SAE(Society of Automotive Engineers)自動運転レベルの評価が、「レベル2+」や「レベル3−」などのように種類が増えてきている。筆者としては今のところ、「レベル2.9」という評価が一番のお気に入りだ。
これはつまり、自動車メーカーやティア1メーカーは、条件付きのレベル3の自動運転車に関する法的責任を負いたくないということなのだろう。このため、オートパイロット機能のようにまだ不安定ながらも、自動運転技術が向上するに伴い、人間がまだ常に責任を負う必要があるということを確認するための名称を、うまく作り出す必要があるのだ。
AIやディープラーニング(深層学習)は、確かにさまざまな安全性に関する利益を提供することができるが、科学の力で風邪を根絶することができないのと同様に、交通事故死亡者をゼロにすることは不可能だ。「Vision Zero(ビジョンゼロ)」は確かに、大きなニュースとして取り上げられ、技術業界も重要な役割を担っている。しかし、常識から考えると、Boeing(ボーイング)の「ボーイング737Max」にMCASソフトウェアの不具合が生じたことなどからも分かるように、現実世界の中で永遠に死亡者数ゼロを実現するという提案は、非現実的なのではないだろうか。
交通事故死亡者の削減に向けた次のステップとなるのは、“AI”ではなく、“IA(Interior Assistance)”だ。車内の運転支援システムである。自動車メーカー各社は、車内運転支援システムの実現に向けて取り組みを進めている。人間のドライバーを置き換えるのではなく、車内の機能を追加することによって、より安全な運転を実現することを目指すものだ。
筆者はこのコンセプトを、「Augmented Driving(拡張運転)」と呼んでいる。技術を活用して、人間の最も優れた点(臨機応変な対応、知覚、状況認識)と、人工知能の最も優れた点(反応時間の速さ、疲労しない、無限の集中力)とを融合させることにより、人間のドライバーが安全に運転できるようにしていくのである。
筆者が最初にこの“拡張運転”に関する記事を書いたのは、2017年10月のことだった。拡張運転は、トヨタ自動車が「CES 2019」(2019年1月8〜11日、米国ネバダ州ラスベガス)で発表した運転支援システム「ガーディアン(Guardian)」をベースとしている。一方、自動車向け安全システムを手掛けるAutoliv(オートリブ)がエレクトロニクス事業の別会社として創立したVeoneer(ヴィオニア)は、「Collaborative Driving(協調運転)」について言及している。
またVolvo Cars(ボルボ)は、路上の安全性の面で、誰もが認める非常に優れた機能を開発している。同社のアクティブセーフティ部門に所属するArmin Kesedzic氏は、EE Timsが最近行ったインタビューの中で、「複数のセンサーを使用することにより、ハンドルやアクセルの使い方など、自動車から収集する全ての情報を監視している」と述べている。
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