中村氏は、現在、5Gに関して誤った認識を持つ企業が少なくないことに言及。具体的には、「5Gは導入当初からどこでも使える」「どこでも10Gビット/秒(bps)、1ミリ秒の低遅延が提供される」「あらゆるユースケースに最初から対応可能」といった誤解が多いといい、それぞれ、「まず、一部エリアから導入し数年かけてエリアを拡大していく」「端末性能としてのピークは5Gbps程度で、遅延はネットワーク構成や基地局とサーバの距離に応じて異なり数ミリ秒から数十ミリ秒となる」「ビジネスモデルと成立しなければならない」と実際の状況を説明した。
特に、ユースケースについては、「地方創生などの社会課題解決に関するものこそ、マネタイズが難しい」と指摘し、「社会的関心も非常に高いと認識しているが、ビジネスモデルの構築には時間がかかるだろう」と話していた。
「5Gの潜在能力の訴求は完了した。これからは真の実力や問題点の確認の訴求が必要だ」と話す中村氏。初めてのミリ波での通信となること、また、特に産業界からの高い注目があることから、5Gのキーとなる技術課題として「ミリ波カバレッジの改善」「上りリンクの性能改善」「産業向けユースケースへの高性能提供」を挙げた。
遮蔽(しゃへい)に弱いなどの問題点があるミリ波のカバレッジ改善に向けては、基地局設置に加え、無線アクセス・バックホール統合伝送など、簡単にミリ波のカバレッジを広げる技術やデバイス技術を適用していくと説明。その例として、AGCと共同開発した「5Gガラスアンテナ」や、電波の方向を変更できるメタマテリアル反射板などを、実験の結果も交えて紹介した。
また高い通信速度や、信頼性、エンド・ツー・エンドでの低遅延など、産業向けのユースケースにおいて求められる高い性能については、特定エリア専用とした「Dedicated Network」を用意することが有望であるとし、ドコモが現在検討を進めている、ハンドキャリー型の移動基地局によって、簡単に専用のセキュアなエリアが用意できる「カスタマイズネットワーク構想」についても紹介した。
中村氏によると、近年、3GPPには多様な業界が参加することとなり、標準の策定のなかで、新領域のサービスに関するトピックが増加してきたという。現在は、Release 16の策定中ではあるが、2025年ごろには5Gの仕様に大きな拡張が必要とされること、すでに6Gに関する議論も始まっていることに触れ、「5Gのさらなる拡張、そして6Gを見据えた長期的な発展を踏まえた標準化対応が重要だ」と説明。より一層の「高性能化」や、あらゆる用途に対応する「高柔軟性」、低消費電力などの「高効率」の追求が重要だと強調した。
そして、現在、5Gのユースケースは、高速大容量や超多数接続、超高信頼低遅延という3つのカテゴリーそれぞれに関する要求に対応してきているが、将来的には、「それらが組み合わさった形での要求も出てくる」といい、その対応のためには、さらに高い周波数帯の開拓や超広帯域化、カバレッジ拡大と大容量化、超高速化などが必要であると説明した。
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