かつて、「軽い、薄い、短い、小さい」と言えば、日本の機器メーカーの得意技だった。この「軽薄短小」は、半導体技術によって実現されるものであり、また、半導体技術をさらに進化させるカギでもあった。日本がほとんど捨て去った「軽薄短小」は今、中国の半導体技術が磨かれる要素となっている。
過去、エレクトロニクスの進化は半導体を中心に小型化(いわゆる『ムーアの法則』)が進み、多くの機能が取り込まれてきた。現在、その頂点にあるデバイスの一つがスマートフォンや、スマートウォッチを代表とするウェアラブル機器である。これらは、電池駆動で高いコンピューティング機能を持ち、さらに、カメラやモーション、気圧、温度まで多数のセンサーも備えている。
スマートフォンやスマートウォッチの「スマート」は2つの意味を同時に表現している。賢いを意味する“スマート”と、小さい(薄い軽いも含む)を意味する“スマート”だ。
かつて日本は、より小さいものを世界に先駆けて作り、世に生み出すこと、さらに高い品質を持つことで技術の世界をリードした。電卓、時計、携帯ラジオを経て、音楽プレーヤー、コンパクトデジカメ、ICレコーダーなど、小型で多機能という優れた日本製品が世界に広がった。筆者は1990年代のほとんどの時間を米国のシリコンバレーで過ごしたが、当時、米国など多くの国の電気屋には多くの日本製品に溢れていた。
いわゆる小さくて薄く軽い「軽薄短小」が日本製品の圧倒的な強みであり、特長であった。
現在われわれは、さまざまなルートで1990年代や2000年代など今から20〜30年前のヒストリカルな製品も入手し、定期的に分解を行っている。現在との比較のためではなく、当時メカニカルで構成されていたものが、いかにエレクトロニクスに置き換わったかを系譜的にまとめるためである。
今でも日本の製品は「軽薄短小」で、優れたモノも多い。だが……武骨で大きめのモノも散見される。
図1は中国製の携帯電話である。実際に会話も通信もできるものだ。大きさは100円玉3個分。実際には使いにくいほどに小さい。しかし、この大きさの中に通信用チップから、簡易ながらアプリケーションを実行できるプロセッサまで備わっている。メインユースに使えるものではないが、エマージェンシー用に持つにはいいのではないだろうか。
このような携帯電話が今、中国で生まれている。果たして、売れているのか? それは関係ない。売れようが売れまいが、このようなモノが生まれる土壌があるからこそ、製品となって販売されるわけだ。だが実際に分解してみると、筐体や基板の作りなど、小さいながらも一般サイズのものと同じで、丁寧に作り込まれている。
現在、「軽薄短小」は中国のお家芸になっているのだ。
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