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Siの限界を突破する! 3300V IGBTの5Vゲート駆動に成功損失も低減(1/2 ページ)

2019年5月、東京大学生産技術研究所の更屋拓哉助手、平本俊郎教授を中心とする研究グループは、耐圧3300VクラスのシリコンによるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を、ゲート駆動電圧5Vで動作させることに成功したと発表。2019年5月28日に、東京都内で記者会見を開催し、開発技術の詳細を説明した。

» 2019年05月29日 11時30分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

 パワーデバイス領域において、シリコン関連技術は成熟し、限界に近いとされている。だが、シリコンでブレークスルーを起こせば、インパクトは非常に大きい。だからこそ、シリコンでのブレークスルーに挑戦している――。

 2019年5月、東京大学生産技術研究所の更屋拓哉助手、平本俊郎教授を中心とする研究グループは、耐圧3300VクラスのシリコンによるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を、ゲート駆動電圧5Vで動作させることに成功したと発表。2019年5月28日に、東京都内で記者会見を開催し、開発技術の詳細を説明した。

 シリコンを使用したIGBT(Si-IGBT)のゲート駆動電圧は15Vが一般的だ。研究グループでは、このゲート駆動電圧を従来の3分の1に相当する5Vまで低電圧化した。ゲート駆動電圧を5Vにすることにより、ゲート制御回路の耐圧を低減することが可能になり、従来では難しかった標準的なCMOSプロセスをゲート制御回路に適用できるようになる。

ゲート駆動電圧5VのIGBTを試作した3インチウエハー。試作した定格3300V/4AのIGBTチップはおおよそ9ミリ角サイズ。エミッタサイズは5平方ミリだという

 平本氏は「標準的なCMOSプロセスが使用できるようになり、ゲート制御回路を大幅に小型化できる他、制御回路のデジタル化が容易になり、将来的にAI(人工知能)を応用するなどよりインテリジェントなIGBTのスイッチング制御が可能になる」とした。

スケーリングによる性能向上

 IGBTの構造は、MOSトランジスタとバイポーラトランジスタを組み合わせたような構造になっている。今回のゲート駆動電圧の低電圧化は、主に、このMOSトランジスタ部分をスケーリング(縮小)することで実現。ゲート駆動電圧15VのIGBTのMOSトランジスタに比べ、サイズを3分の1に縮小し、ゲート駆動電圧についても3分の1にまで低減した。

実施したスケーリングの概要と効果 (クリックで拡大) 出典:東京大学生産技術研究所

 「MOSトランジスタ部のスケーリングは、特に困難な技術ではない。ただ、ゲート駆動電圧を引き下げると、ノイズに弱くなるため、これまで誰も試してこなかった」(平本氏)とする。研究グループでは、寄生容量を抑えるなどノイズに強いIGBT素子構造を実現するなど耐ノイズ性能を高めた。また、開発したIGBTの安定駆動には、インダクタンス低減などゲート制御回路でのノイズ対策も不可欠だとしつつ、「ゲート制御回路をデジタル化すれば、新たなノイズ対策技術を適用可能になる」とし、低電圧ゲート駆動の長所を生かすことで、短所を補い実用性を持たせる考えを示した。

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