ゲート駆動電圧の低電圧化、MOSトランジスタのスケーリングにより、IGBTとしての電力損失の低減も実現されたという。
東大生研クリーンルームで3インチウエハーを用い試作した定格電圧3300V、定格電流4AのIGBTと、同じチップサイズで同じ定格でゲート駆動電圧が15V(MOSトランジスタサイズ3倍)の従来IGBTと比較したところ、試作したゲート駆動電圧5VのIGBTの方が、立ち下がり特性が優れることを確認。
さらにMOSトランジスタのスケーリングにより、IGBT特有の電子注入促進(Injection Enhancement/IE)効果が高まり、電流密度を向上させオン損失の低減にも成功した。研究グループでは、「ターンオフ時のスイッチング損失を35%も低減することを実証した」としている。
平本氏は「パワーデバイス領域において、シリコン関連技術は成熟し、限界に近いとされている。それに伴い、Si-IGBTメーカーから研究開発を行うための試作ラインが姿を消した。その結果、Si-IGBTの研究開発を行うには量産ラインを使わざるを得ず、よりSi-IGBTの研究開発が難しくなり、Si-IGBTはコスト競争の時代に突入しつつある」と現状のSi-IGBTが置かれている状況を分析する。
その上で平本氏は、「現在、パワーデバイス開発の中心はSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)に移っているが、調査会社(=富士経済)の予測によれば、2030年時点でもパワー半導体市場における主流はシリコンであり、その市場規模は現状の1.5倍以上に相当する4兆円を上回るとされている。すなわち、シリコンでブレークスルーを起こせば、インパクトは非常に大きい。だからこそ、シリコンでのブレークスルーに挑戦している。われわれ大学が、シリコンパワーデバイスの研究開発することに対して(国内IGBTメーカーからの)需要があり、研究開発拠点としての役割を果たしたい」とする。
今回の低電圧ゲート駆動IGBT研究には、三菱電機、東芝デバイス&ストレージの2社も参画し、実用化を強く意識した研究開発が実施されている。今回開発したIGBTの実用化時期について、平本氏は「企業次第になる。推測になるが、企業側は既に、開発した技術に関心を持ち、実用化に向けて動き出しているだろう」とした。
なお、本研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「低炭素社会を実現するパワーエレクトロニクスプロジェクト」の「新世代Siパワーデバイス技術開発の一環として実施。研究グループには、東大生研、三菱電機、東芝デバイス&ストレージの他、北九州市環境エレクトロニクス研究所、明治大学、東京工業大学、九州大学、九州工業大学が参加している。
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