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5Gを活用する測位、低遅延でサブメートル級の精度も各方面での活用に期待(5/5 ページ)

» 2019年06月10日 11時30分 公開
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より広い帯域幅の利用で測位精度が向上する

 5Gの新しいスペクトラム割り当てでは、特に高周波数域(サブ6GHzに加えて24GHz以上のミリ波)にある、より広い帯域幅が利用できるようになるため、セルラーベースの測位にとって明るいニュースである。

 広い帯域幅は、つまり信号時間をより正確に分解できることを意味している(時間と帯域幅は反比例の関係にある)。このため、帯域幅が広がれば、信号の通りにくい都市部や屋内環境での主なエラーの原因であるマルチパス効果を解消する能力が向上する。信号が異なるパスを通って異なる時間に到着するからだ。

 5Gが新しい周波数に移行することは、セルラー基地局の地理的配置や使用されるアンテナ技術にも影響が及び、これもまたセルラーベースの測位に好都合な要素となる。

 これらの周波数帯は、伝搬損失がより高いので、短い波長は長い波長よりもレンジが狭くなる。モバイルネットワーク事業者はサービスエリアを維持するために、これまでよりも多くの基地局を設置する必要がある。ただし、ビームフォーミング機能を備えたアンテナアレイの導入により、信号をエンドユーザーに向けやすくなる。指向性アンテナの密度が高くなれば、遅延、到来角(AoA:Angle of Arrival)と出発角(AoD:Angle of Departure)を測定することでマルチパス成分の分解能が向上し、測位性能が向上する。さらに、単一の基地局を使用してデバイスの位置を特定できるようになる可能性がある。

ユビキタス高精度測位には、ハイブリッドな手法が必要に

 一つの方法だけでは、ターゲットのユースケースで求められる精度をあらゆる環境条件で確実に提供することはできないだろう。これまで見てきたように、今日のGNSSに基づくソリューションは高精度の測位を確実に可能にするが、屋内の用途では限界がある。一方、5Gベースの測位ソリューションは、屋内と屋外の両方のシナリオで正確な位置推定を完全に行うことができる。

 GNSS、地上波ビーコンシステム(TBS)、Wi-FiとBluetoothに基づく測定および、慣性測定(IMU)など、複数のセル方式と非セル方式とを最適に組み合わせたハイブリッドソリューションは、これらの目標を達成できる最も有望な選択肢となるだろう。冗長性を与えることによって、フォールトトレランス(対障害性)の向上とソリューション全体の完全性を向上させることができ、それぞれの位置推定に合わせて信頼性の定量的尺度が得られる。

 新たな応用を可能にするためのハイブリッド型測位ソリューションの可能性を考慮して、3GPPの研究対象には、GNSSと衛星信号に加えて、Wi-FiやBluetoothなどの地上信号が含まれている。3GPPの研究成果として実現されたソリューションは、2020年第1四半期に公開されるリリース16の無線仕様の中で紹介される予定だ。

 3GPPは野心的な目標を設定しており、リリース16を2020年上半期に公開する予定だ。5Gの多様な信号環境の上にセルラーベースの測位ソリューションを実装することは複雑な試みであり、インフラストラクチャをタイムリーに展開し、十二分に広いサービスエリアを実現することで十分に大きなユーザー基盤を獲得することが求められる。

 これまで見てきたように、ハイブリッド測位方式は、新たに生まれてくる適用分野の厳格なニーズを満たす上で不可欠となっている。特に、場所を問わず、常時、高精度の測位が期待されることが当たり前となるため重要だ。このことから必然的に、GNSS、セルラー、短距離、衛星通信など、さまざまな技術の代表者が協力して、その構成要素の総計よりも優れた結果を生み出すことが求められる。


筆者

Sylvia Lu

 ユーブロックスのサンディエゴ・オフィスにて、セルラー製品戦略部門プリンシパル・プロダクト・マネージャーを務める。

 ユーブロックスのProduct Center Cellularの5G技術責任者であり、無線通信の研究開発、セルラー・チップセットの開発、世界標準および技術戦略の分野で11年以上の業界経験を持つエンジニア。Cambridge Wireless(CW)社の取締役兼役員に選任された他、UK 5G Innovation Networkの諮問委員会メンバーとして5Gの開発、採択における世界的リーダーとしての英国をサポートし、また5G開発の今後の計画について中立的かつ業界にフォーカスした、独自の助言を行っている。

David Bartlett

 ユーブロックスのProduct Center Positioning部門のシニア・プリンシパル・エンジニア。信号処理、ソフトウェア/エンジニアリングおよびワイヤレス通信分野で豊富な経験を持つ。

 英国の公認エレクトロニクス・エンジニア(CEng)であり、IET(英国工学技術学会)のメンバーでもある。さらに、RIN(Royal Institute of Navigation: 英国航海学会)のメンバーで、Cambridge WirelessのLocation Special Interest Groupの共同責任者を務める。いくつかの会社を共同設立し、技術と知的財産権を生み出した実績があり、多くの特許を取得し、著作物を出版している。


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