英国の国民健康保険(NHS:National Health Service)が使用するための、業界初となる医療画像向けのAI(人工知能)プラットフォームの実現を目指し、新しいプロジェクトが始動する。これは、King’s College London(KCL)とNVIDIAが共同で進めるプロジェクトで、放射線処理の中で最も時間がかかる放射線データの解釈を、自動化することを目指すという。
英国の国民健康保険(NHS:National Health Service)が使用するための、業界初となる医療画像向けのAI(人工知能)プラットフォームの実現を目指し、新しいプロジェクトが始動する。これは、King’s College London(KCL)とNVIDIAが共同で進めるプロジェクトで、放射線処理の中で最も時間がかかる放射線データの解釈を、自動化することを目指すという。
機械学習などのAIはこれまで長い間、医療画像の分析や診断を実現できる技術として期待されてきたが、実世界においてこのようなシステムを実現するのは、急速な技術進展によって提案されているほど簡単なことではない。
KCLでLondon Medical Imaging and Artificial Intelligence Centre for Value-Based HealthcareのCTO(最高技術責任者)を務めるM. Jorge Cardoso氏は、「現在の重要な課題は、医療コミュニティーや国民の認知を得ることだ」と述べる。
AIシステムは、患者の治療決定には関与しないが、医療チームが正しく確実に患者の優先順位を付けられるようサポートしたり、意思決定の裏付けとなる情報を提供したりすることになる。
Cardoso氏は、「われわれには、放射線科医がAIシステムを確実かつ効果的に利用できるようにする責任がある。意思決定プロセスをサポートすることにより、最終的には病院全体で、患者の治療や患者スループットの向上を実現したい考えだ」と述べている。
AIシステムを構築する上で、もう1つの大きな課題となっているのが、患者の秘密保持である。NHSは今回初めて、協調機械学習(Federated Learning)の手法を採用することにより、患者のプライバシーやデータガバナンスの問題に取り組む予定だという。
Cardoso氏は、「協調機械学習を採用することで、ヘルスケア分野のプライバシーに関する一般的な問題の多くを回避することができる。主な目標は、臨床データを、現在置かれている場所から移動させないようにすることだ。つまり、病院が管理/セキュリティ手続きを行うという保護下においてデータを維持できるということだ」と述べている。
大半のAIシステムは、エンドデバイスからのデータを一元化することにより、クラウド上で1つのモデルをトレーニングする。一方、協調機械学習では、個々のエンドデバイス上で、ローカルで利用可能なデータを使用してモデルの学習を行う。そして、変更点をまとめたデータをクラウドに送信し、クラウド上のモデルをアップデートしていく。
これはつまり、個々のNHS信託が、それぞれの領域外でデータを送受信することなく、独自のアルゴリズムを開発できるようになるということだ。NHS信託の個々のモデルを組み合わせて、全体的なモデルを構築することが可能になるため、あらゆる種類の人口構成に対して効果的な学習を実行できる。
Cardoso氏は、「このような規模で協調機械学習ソリューションを構築することは、非常に難しい。全ての大規模な技術および医療システムを正確に協調させ、あらゆる専門家チームがうまく協業できるようにする必要があるからだ」と述べる。
また同氏は、「倫理やガバナンス関連の課題も山積みだ。その内容は、クリニカルパス(入院診療計画書)について臨床医たちの合意を得ることから、病院のIT環境におけるシステムの導入に至るまで幅広い。患者や介護士、臨床医たちにとってAIは、臨床ワークフローに対して確実にメリットをもたらす存在でなければならない」と説明する。
同氏は、「導入に向けてアルゴリズムを準備するというプロセスは非常に時間がかかる。そのため、AIを活用したシステムを導入する根拠を示し続けていく必要がある。アルゴリズムは、患者の診断に直接使われることはないだろう。まずは安全システムとして使われてから、優先順位を付けるためのシステムや、トリアージ(重症度判定)システム、その後、さらに上位のシステムに使われるようになるだろう。これら全ての段階において、患者に損害が与えられるようなことが絶対にないよう、膨大な量の検証と持続的な開発が不可欠となる」と述べる。
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