物質・材料研究機構(NIMS)は、50nmの波長分解能と±1度の指向性を実現した多波長型(分光型)赤外線センサーを開発した。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の長尾忠昭グループリーダーらの研究グループは2019年8月、50nmの波長分解能と±1度の指向性を実現した多波長型(分光型)赤外線センサーを開発したと発表した。真温度を非接触で計測することができ、物体の状態を判別するセンサーなどへの応用が可能である。
全ての物体は、熱ふく射として電磁波を放出している。この電磁波は、物体を構成する材料の種類や状態に応じて波長分布が異なるという。ところが、現行のサーモグラフィーや赤外線カメラでは、電磁波を波長分別することができず、熱ふく射の波長分布が明確な人体の温度などを除き、コーティング材料や半導体材料などの温度を正確に測定することは難しかった。
研究グループは今回、世界最高レベルの波長分解能を持つ分光型赤外線センサーを開発した。1×1cmのシリコンチップ上に、4個の赤外線素子を搭載しており、各素子はそれぞれ異なる波長に応答する。
具体的には、極めて小さい隆起構造を周期的に配置し、その周期を調整したり、隆起構造のサイズと高さを精密に調整したりすることで、特定波長の電磁波だけを熱に変換する表面構造とした。発生した熱を焦電体で電気信号に変換する仕組みだ。
試作した多波長オンチップセンサーは、中赤外帯域(3.5〜3.9μm)の4つの波長に対し、50nmレベルの波長分解能で応答する。指向性も±1度となるように工夫して、4つの素子を配置した。
今回は、性能を飛躍的に向上させるため、「ウッズの異常回折」や「表面波共鳴」と呼ばれる回折現象を利用した。これにより、従来に比べて2桁近い高レベルの波長分解能と角度分解能を達成することができたという。
研究グループは今後、熱検知材料の高感度化と素子の断熱性能を高め、センサーのさらなる性能向上に取り組む。これによって、物体の真温度を計測するセンサーや製品の欠陥を判別するセンサー、車載環境センサーなど、幅広い用途への対応が可能とみている。
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