理化学研究所(理研)らによる研究グループは、微小な磁気渦(磁気スキルミオン)を形成する新たな磁性材料の開発に成功した。
理化学研究所(理研)らによる研究グループは2019年8月、微小な磁気渦(磁気スキルミオン)を形成する新たな磁性材料の開発に成功したと発表した。
今回の成果は、理研創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの車地崇客員研究員(マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルフェロー)、十倉好紀グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、物質・材料研究機構の山崎裕一主任研究員、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の佐賀山基准教授らの共同研究によるものである。
磁気スキルミオンは、磁気モーメントが渦状に配列したもので、その大きさは一般的に数十〜数百ナノメートルである。この磁気渦は「創発磁場」と呼ばれ、電子はそこに強い磁場があるように振る舞い、「トポロジカルホール効果」として観測されるという。
こうした特性を生かし、磁気スキルミオンを情報記憶媒体とする磁気メモリの開発が注目されている。ところが磁気スキルミオンは、結晶格子において空間反転対称性が破れている状態が不可欠であった。空間反転対称性のある物質だと、「スピンがねじれて配列する微視的メカニズムが打ち消され、磁気スキルミオンが熱平衡状態として安定化しないため」と、言われてきた。このため、材料候補となる物質が限られていた。
そこで共同研究グループは、より多くの物質を利用できる方法を検討してきた。今回開発したのは、磁気スキルミオン安定化のメカニズムとして「磁気フラストレーション」と呼ばれる現象を利用する方法である。この方法だと、空間反転対称性の破れに対する制約を克服できるという。
開発した方法は、磁性原子を三角格子に並べるだけ済み、極めて簡単に実現できるのが特長である。理論研究ではこれまで、その可能性が提案されてきたが、実験的に磁気スキルミオンの発現を確認した事例は今回が初めてという。
共同研究グループが注目したのは、金属間化合物の「Gd2PdSi3」である。結晶構造に空間反転対称性がある一方で、磁性原子のGdは、三角格子状に並んだ磁気フラストレーションの状態にあるためだ。
浮遊帯溶融法で成長させた単結晶を用い、共鳴X線散乱実験を行った。その結果、単結晶の三角格子に対し、磁場を垂直方向にかけたときだけ、磁気スキルミオンが格子状に配列する磁気スキルミオン格子状態が発現することが分かった。
磁気スキルミオンの大きさは約2.5nmである。一般的な磁気渦より1桁小さいサイズでも安定していることが分かった。これは、磁気フラストレーションを利用した方法が、スピンのねじれに相対論的効果は関係がないため、サイズをより小さくすることができたとみている。この結果、磁気渦の集積密度を高めることが可能である。
共同研究グループは、磁気スキルミオンを電気信号として検出することにも成功した。これにより、磁気スキルミオン格子相においてのみ、大きなトポロジカルホール効果を発現することが分かった。さらに、磁場の値を変化させて磁気スキルミオン格子相の外の領域へ移行すると、急激にホール抵抗率が減少した。このことは、磁気スキルミオンが伝導電子に対し、創発磁場の効果を及ぼしていることを示したものだという。トポロジカルホール抵抗率は、従来の磁気スキルミオン物質である「マンガンシリコン合金(MnSi)」の値と比べて、1桁以上も大きいことが分かった。
共同研究グループは、今回の研究成果を設計指針に適用することで、より巨大な電磁気応答を示す磁気スキルミオン物質の発見につながるとみている。
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