Appleは、Intelのモデム事業部門を買収した後、高性能5G(第5世代移動通信)モデムの構築を実現するという、急坂を登らなければならない課題に直面している。RFチップメーカーの買収が必要になる可能性さえありそうだ。
Appleは、Intelのモデム事業部門を買収した後、高性能5G(第5世代移動通信)モデムの構築を実現するという、急坂を登らなければならない課題に直面している。RFチップメーカーの買収が必要になる可能性さえありそうだ。
Appleは2019年9月10日(米国時間)、新型iPhoneを発表した。発表した新型iPhoneは、5G対応ではない。現在、5G対応製品が次々と発表されているが、Appleの5G対応製品の投入に向けた準備状況について、特にモデムの観点から、どのような位置付けにあるのかを検証していきたい。
Appleが、Intelの失敗に終わったモデム事業部門を買収することを発表して以来、その理由やメリットについて、さまざまな分析が行われてきた。問題は、「Appleは、後れを取っているIntelのモデム技術を立て直し、競争力のあるモデムを開発できるのだろうか」という点だ。
モデムは、業界団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)が策定した無線標準規格を具現化した製品である。3GPPは、メンバー企業から提案される膨大な技術の中から、最適なものを採用し、規格として策定する。モデム分野におけるリーダーの座を狙いたい企業は、まずは標準規格でリーダー的地位を獲得しなければならない。
標準規格でリーダーシップを確立した企業は、自社の技術を標準規格に組み込めるようになるため、その技術の製品化をめぐる競争において、有利なスタートを切ることができる。このようなリーダーシップを確立するためには、モデムの性能だけでなく、長年にわたる持続可能な大規模投資によって構築された、エンドツーエンドシステムの専門技術も必要だ。さらに、3GPPのメンバー企業との間で、アイデアや意思、目的、野望などをオープンに共有して、密接に連携することにより、信用を築き上げる必要がある。
Appleは、秘密主義の傾向があることで知られている。同社の最先端技術の大半は、独自のエコシステム内の専用技術として機能する。このためAppleは、モデム分野でリーダー的地位を確立していく上で、技術開発の手法を根本的に変える必要がある。
現在何よりも重要視されているのが、モデム性能だ。5Gが今後、スマートフォンの枠を超えて、インダストリアルIoT(IIoT)やミッションクリティカルなサービスを接続するようになれば、モデムの重要性はさらに高まっていくだろう。どの市場リーダーも、後れを取りたくない。一度後れを取ってしまうと、追い付くことは非常に難しい。Intelの事例は、それがどれほど壊滅的な状況をもたらすことになるかを、生々しく示している。
Intelのモデムは、市場リーダーの製品と比べるとやや劣るものの、十分な性能を備えているといえる。Appleは5Gに関して、原点に戻ってやり直す必要がある。これはつまり、Appleが、QualcommやSamsung Electronics、Huawei、MediaTekなどのさまざまな競合メーカーに対して、少なくとも数年間の後れを取っているということになる。どれくらいの速さで追い付けるのかは、今のところ不明だ。
モデム市場でリーダーシップを確立するには、果てしなく戦い続けて勝利を維持しなければならない。技術は、急速に変化し続ける。つまり毎年、市場参入のための資金とは別に、開発のためだけに10億米ドルを超える膨大な資金を投入し続ける必要があるのだ。
Appleにとって10億米ドル規模の投資は、取るに足りない金額かもしれないが、特に同社のすべての投資家たちが進捗を注視しているという状況の中、モデム事業で迅速に成果を提示することができなければ、損失の元になる可能性がある。さらにAppleは、数千人のエンジニアから成る中規模の開発チームで取り組んでいるが、Qualcommのような、Appleの何倍も規模の大きい開発チームでモデムに注力しているメーカーと競争しなければならない。また、モデムへの注力の度合いについても同じことがいえる。
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