東京大学の研究グループは、ルブレンと呼ばれる有機半導体の微結晶試料に、ポンプ−プローブ分光法を適用し、光キャリアに由来するテラヘルツ域の光学伝導度スペクトルを精密に測定した。測定したスペクトルを解析し、単結晶でのキャリア移動度を見積もることが可能なことも実証した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本博教授と宮本辰也助教および、竹谷純一教授らによる研究グループは2019年9月、ルブレンと呼ばれる有機半導体の微結晶試料に、ポンプ−プローブ分光法を適用し、光キャリアに由来するテラヘルツ域の光学伝導度スペクトルを精密に測定したと発表した。測定したスペクトルを、ドルーデ・スミスモデルを用いて解析すると、単結晶でのキャリア移動度を見積もることが可能なことも実証した。
有機半導体の移動度は、単結晶FETの伝達特性から評価するのが一般的だという。ところが、新たに合成される試料は、その多くが粉末状の微結晶である。微結晶の薄膜を用いたFETの伝達特性は、結晶粒界における散乱の影響を受けるため、FETの性能を示す指標となるキャリア移動度も、単結晶FETに比べて大幅に小さくなる。ところが、FETに適した大きさの単結晶を作製することが難しいという課題も抱えていた。
そこで研究グループは、微結晶試料から物質固有の移動度を見積もることができる手法の開発に取り組んだ。ここで注目したのが、光キャリアの移動度を反映するテラヘルツ領域の光学伝導度スペクトルである。ルブレンの微結晶試料に光ポンプ−テラヘルツプローブ分光を適用し、光キャリアに由来する光学伝導度スペクトルを測定した。
今回行った実験では、単結晶試料の場合、得られたスペクトルについてドルーデモデルを用いて解析したところ、移動度は29cm2/Vsの値となり、単結晶FETの伝達特性により評価されている移動度と同等であった。一方、微結晶試料から得られたスペクトルは、ドルーデ・スミスモデルで解析した。この結果、移動度は24cm2/Vsとなった。
今回用いた手法の有効性を検証するため、高移動度有機半導体「C10−DNTT」の微結晶試料を用い、同様な測定と解析を行った。この結果、17cm2/Vsという高い移動度の見積もりが得られたという。
研究グループは、開発した手法をさまざまな有機半導体の微結晶試料に適用し、高移動度有機半導体の検索に活用していく予定である。
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