表1は、AmbiqのApolloマイコンの進化の様子である。周波数はシリーズ進化のたびに2倍となり、搭載されるフラッシュメモリ容量も倍増し、通信機能が追加されるなど、いずれのステップでも目に見える進化を遂げている。新製品を作る意義に満ちている!(次の一手が見ものだ) Dialogも同様だ。
一般に欧米のチップメーカーは、「(性能が)1.1倍」というレベルの進化では、新製品(新しいチップ)は作らない。確実に、「2倍」「5倍」といった、イノベイティブな進化を遂げてくる。あるいは新しい機能を取り込んでいる。こうして、電源ICメーカーが通信マイコンへ、あるいは低消費マイコンメーカーが通信マイコンへと、大きな飛躍を進めているわけだ。そして、今や多くの機器メーカーが採用する通信マイコンメーカーの一角に入り込むことに成功している。
日本メーカーはマイコンで王国を築いたが、通信マイコンでは決して良いポジションにあるとは言えない。新興メーカーや上記のようなメーカーにウェアラブル領域を奪われているという構図になっている。
IoTやウェアラブル機器向けのマイコンに必要な進化として、「2コア化」(センサー側とその他を同時に制御するため)と「通信の取り込み」が挙げられる。欧米や中国のチップメーカーは、これらの課題にきっちり応えているのだ。今回は中国チップを扱わなかったが、中国製のこの手のマイコンは多数存在する(別の機会に報告したい)。
表2は2019年の代表的な欧米の通信マイコンだ。メモリの容量やCPUの周波数、CPUコアの個数に、まだ若干の仕様差がある。CPU1基のものもある。しかし、Bluetooth 5.0やセンサー用の高機能/多チャンネルのA-Dコンバーターや、大容量フラッシュメモリはいずれにも搭載されている。
Huawei、Xiaomiらはこれらを使い、ウェアラブル機器を開発する。他の中国メーカーのウェアラブル機器も同様だ。中国ローカルの通信マイコン、欧米の通信マイコン、そしてMediaTekのプラットフォーム/SoC(System on Chip)もこの分野に乱立している。
しかし、年間数十機種を分解(話題の製品や売れ筋ランキング上位の製品を中心に分解機種を選定)している弊社は、腕時計型/リストバンド型ウェアラブル機器の領域で、日本製マイコンはおろか、日本製チップをこの2年ほぼ見たことがない。“ほぼ”というのは、東芝のマイコンがFitbitに採用されているからだ。決してゼロではないのである。ただし、かつてマイコン王国であった日本のマイコンは、ことウェアラブル機器の領域では、大きなポジションを形成するには至っていない。
なお、中国のウェアラブル機器では、ArmコアからRISC-Vコアへの切り替えなども進み始めている。このあたりに関しても今後報告していく予定である。
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