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ラズパイ4は「産業用で魅力的」、広がる活用事例TechShareがイベントを主催(1/2 ページ)

シングルボードコンピュータなどの販売を手掛けるTechShareは2019年10月30日、日本Raspberry Piユーザグループとともに、「Raspberry Pi(以下、ラズパイ)」の産業利用に関する情報を共有するイベント「Raspberry Pi Industry User Conference 2019」を都内で開催した。【訂正あり】

» 2019年11月05日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
TechShareの重光貴明氏

 シングルボードコンピュータなどの販売を手掛けるTechShareは2019年10月30日、日本Raspberry Piユーザグループとともに、「Raspberry Pi(以下、ラズパイ)」の産業利用に関する情報を共有するイベント「Raspberry Pi Industry User Conference 2019」を都内で開催した。

 ラズパイは特にここ数年で産業利用が進んでおり、TechShareが同イベントを開催するのは今回で2回目となる。TechShareの代表取締役を務める重光貴明氏はイベントの冒頭、「当社は、ラズパイの産業利用をサポートしてきた。ラズパイはオープンソースのハードウェアなので、産業利用のハードルはまだあるが、(ラズパイ自体の)性能が上がっており、産業での活用にとても期待している」と述べた。

「ラズパイ4」は産業利用で魅力的

TechShareの大坪基秀氏

 TechShareでシニアマネジャーを務める大坪基秀氏は、ラズパイの産業利用に向けたTechShareの製品を幾つか紹介した。

 ラズパイの産業利用を促進すべく、TechShareが注力しているのはカメラアプリケーションとFA(Factory Automation)への適用だ。例えば、カメラを使って欠陥を検出するシステムが挙げられる。「187度の視野角を持つ当社のカメラ『Compact Pi camera』とラズパイを使うと、PythonやOpen CVと組み合わせて、そこそこの質の欠陥自動検出システムを構築できる。こうしたものを手軽に作れるのがラズパイの魅力だ」(大坪氏)

 工場で、ロボットアームの制御にラズパイを使う事例もある。TechShareは、汎用ロボットアーム「DOBOT Magician」とラズパイを組み合わせ、小型パーツの整理・組み立て作業ができるビジョンシステム付きの小型ロボットアームシステムの開発をジヤトコから受注。2018年9月に、その第1弾のプロトタイプを納品したと発表している。

ジヤトコのプロジェクトでTechShareが制作した小型ロボットアームのプロトタイプ。ロボットアーム「DOBOT Magician」の制御にラズパイを用いている 画像:TechShare

 TechShareは、ラズパイを産業用途で安定して利用するためのケース「Compact Pi Box Metal」も提供している。CPUの排熱や、電源を安定供給するためのHat経由の給電、起動およびシャットダウンができるボタンを搭載したもので、Raspberry Pi 4に対応したバージョンもある。

イベント会場に展示されていた「Compact Pi Box Metal」(クリックで拡大)

 大坪氏は「Raspberry Pi 4は産業用に魅力的だ。インタフェースも強化されていて、今まで以上に産業利用が出てくるのではないか」と語った。一方で、「他のシングルボードコンピュータが機械学習用チップを搭載する流れになっている中、Raspberry Pi 4でAI(人工知能)用チップを搭載しなかった。Raspberry Pi財団の自信の現れだろう。自分たちが信じる方向に進んでいるのではないかと思う」とコメントした。

ラズパイをエッジAIで使うことへの期待

Ideinの中村晃一氏

 イベントでは、ラズパイを使って産業向けのシステムを開発している事例も複数紹介された。Idein(イデイン)の設立者でCEO(最高経営責任者)兼代表取締役を務める中村晃一氏は、同社の開発者向けPaaS(Platform as a Service)「Actcast(アクトキャスト)」を紹介した。

 同社の技術は、「安価なデバイスでディープラーニングの推論を高速に実行できるようにする」というもの。顧客が開発した推論アルゴリズムを安価なエッジデバイス向けに“変換”し、エッジコンピューティングを可能にするという。Ideinは、変換したアルゴリズムをラズパイのGPUに搭載する。

 Actcastは、この“変換”技術を含め、エッジデバイスにアプリケーションを遠隔でインストールし、管理するプラットフォームだ。「なぜ“管理”が必要なのかと思われるかもしれないが、エッジAIではこれが重要になる。なぜなら、AIのアルゴリズムは決して完成しないからだ。アルゴリズムに対するユーザー側のニーズは、実際に使用する現場などによって常に変わる。さらにエッジAIの難点として、個々のデバイスにソフトウェアが搭載されていることが挙げられる。それらのソフトをいつ、どうやって更新するのかが重要だ。その仕組みを持っているのがIdeinだ」(中村氏)

 Ideinは、ラズパイを使う理由として、「ラズパイが支えている市場の規模が、他のシングルボードコンピュータ(SBC)とは異なり、巨大である」点を挙げた。「エッジAI周りで必要な技術は多数ある。他のSBCだと、例えばエッジAIは速く動くがカメラが使えない、ディスプレイドライバーが古い、通信ができない、ケースが売っていないなどの課題が多い。中には、コンテナ型仮想化技術が使えないなど、ケースによっては割と致命的な問題もある。ラズパイは巨大なエコシステムがあるが故に、これらの点で圧倒的に有利だ。唯一の欠点として、推論の実行には低スペックということが挙げられるが、ここをわれわれが解決した」(中村氏)

 中村氏は、「ラズパイをエッジAIとして使うことに対する期待は大きい」と語る。「小売りやセキュリティ、サイネージ、MaaS(Mobility as a Service)などの分野で、『ラズパイでエッジAIを行いたい』というニーズが急増している。ラズパイを産業利用することに対する抵抗感は、思っていたよりも少ないようだ。安価なので壊れても交換すればいい、と気軽に使えるのも大きいのだろう。しかも、実際はそんなに壊れないケースも多い」(同氏)

Ideinのデモ。左は、カメラで撮影した映像に移っているものを、ラズパイで推論している様子。FPS(フレーム/秒)が約「10」という点に注目してほしい。Ideinの説明担当者によると、「一般的なフレームワークで、CPUで推論すると1〜2fspくらいの推論スピードが出れば御の字というところ」だという/右は、ラズパイとカメラを搭載したエッジ端末のプロトタイプ(クリックで拡大)

ラズパイとカメラを搭載したエッジ端末で撮影した映像から骨格(ポーズ)を推論で検出するデモ。推論のスピードは約7fpsだった
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