半導体業界にとって2019年は、市場全般の低迷に加え、米中貿易問題、日韓貿易問題といった政治的な要素にも大きく影響を受けた年となった。IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、2020年の展望を交えつつ、2019年の半導体業界を振り返る。
この記事は、2019年12月11日発行の「EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版12月号」に掲載している記事を転載したものです。
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半導体業界にとって2019年は、市場全般の低迷に加え、米中貿易問題、日韓貿易問題といった政治的な要素にも大きく影響を受けた年となった。
IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、2020年の展望を交えつつ、2019年の半導体業界を振り返った。
【座談会参加者】
EE Times Japan編集部(以下、EETJ) まずは2019年を総括していただけますか。米中、日韓の貿易戦争など、特徴的なことが多かった年だと感じています。
南川明氏 その他にも、何よりもまず半導体全体の市場が急速に低迷した年でもありました。背景の一つに、スマートフォン市場の停滞がありますが、ここまで成長が止まるとは誰も予測していなかったと思いますよ。自動車市場もマイナス成長でしたし。
あとは、半導体製造プロセスの微細化がスローダウンして、これからどうするのか、という実装技術についても、これまで以上に議論された年でした。TSMCの「CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)」、Intelの「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」といったパッケージング技術への関心も高まっています。
ひとことでまとめるならば、大きな転換点となった年だと感じています。
前納秀樹氏 車載半導体市場も、ことし(2019年)が底ですね。
杉山和弘氏 自動車の生産台数が下がりましたから。モデルチェンジの谷間の時期でもありましたし。自動車市場にとっても、2019年は大きな転換期だったと言えると思います。
EETJ EV(電気自動車)の市場に関してはどうだったのでしょうか。
杉山氏 中国のマーケットが落ち込んでいますね。以前、EV市場の急速な伸びが期待されていた時には、(EVを急速充電する)電力が課題として挙がっていましたが、今は「そもそもEVはどうなのか」という議論も出てきています。
トヨタもPHV(プラグインハイブリッド車)のライセンスを公開するなど、EVよりも低価格帯の電動車の方向に進んでいるのでは。
南川氏 中国も、ハイブリッド車を“エコカー”と認めて、製造と普及に本腰を入れようとしています。より現実的で健全な方向に向かっていると思いますよ。
李根秀氏 とはいえ、EVの車種は増えていますね。特に中国の自動車メーカーは、欧州勢に食い下がってくる、少なくとも日本勢を上回る勢いで加速しているように感じます。BYD(比亜迪)やGAC(広州汽車集団)がEVを市販し始めましたし。
南川氏 先日、中国に行ってきましたが、やっぱり中国のEVは安いですね。200万〜300万円の価格帯で購入できます。その辺りは、欧州の高いEVとはちょっと違う気がします。とにかく、EVで自動運転を実現できるスマートシティーをいち早く作り、それを一帯一路の都市に移植して外貨を稼ぎ、経済圏を広げていくことが重要な国家戦略だからです。
李氏 あとは、2020年以降、新機能の追加がこれまで以上に進むのではないでしょうか。新機能を盛り込んでいくペースが、数年前の予測よりも速い気がします。来年以降の目玉はV2X(Vehicle to everything)とゲートウェイECU(電子制御ユニット)ですね。複数のECUを束ね、外部のコントロールとセキュリティ機能を担うゲートウェイECUの搭載が、今後は常識になるとされていて、その研究開発が進んでいます。特に欧州勢ですね。これからは、ゲートウェイECUが、自動車メーカーの技術力を示す新しい指針になる可能性があります。先端のセキュリティ技術や電子技術に関する推移がゲートウェイECUで見られるのではないかと思います。
EETJ そうなると、車載向けの半導体や電子部品のサプライヤー側では、どんな変化が起こりますか?
杉山氏 スマートフォン向けのアプリケーションプロセッサを手掛けるメーカーが、より自動車市場に入りやすくなりますね。例えばQualcommのチップは、カーナビゲーション、つまりインフォテインメントシステムで既に採用されています。今後は、そこにADAS(先進運転支援システム)が統合されたプラットフォームに発展していくと考えています。こうしたプラットフォームには、中央で制御するドメインコントローラーが統合されることになるので、そうなると車載半導体メーカーの勢力図が、がらりと変わる可能性はあるかと思います。
実際、自動車メーカーの方たちは、スマートフォン向けチップメーカーの市場参入を期待していますよ。スマートフォン向けチップは数が出ているので、価格が安い。V2Xや自動運転など、通信機能を搭載するのはとにかく膨大な投資が必要なので、半導体ICのコストは皆さん抑えたいわけです。
V2Xは、これからどんどん成長していくと思います。V2XにはTCU(Telematics Communication Unit)が必要ですが、TCUの搭載率は、市販される台数に対してまだ50%程度です。5G(第5世代移動通信)を自動運転やV2Xに使う場合にTCUは必要になりますから、日本でも、この分野は急速に伸びていくと思いますよ。
EETJ 5Gの自動車への応用については、いかがですか。
大庭光恵氏 2019年と2020年では、特に目立った動きは見えていないというのが現状です。自動車向けの5Gの標準化は、後回しになっています。5Gは、やはり最初はブロードバンドやIoTで、クルマ向けではグローバルスタンダードの策定には至っていないですね。
ただ、その前段階として、モバイルエッジコンピューティング(MEC)を活用するという動きがあります。仮想化技術を使い、より汎用的なサーバに近いものでモバイルネットワークを構築していくというものですが、そのアプリケーションの一つが自動車になる、という方向性は見えてきました。
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