名古屋大学と九州大学の研究グループは、一滴の水で5V以上の電圧を発電させることに成功した。雨滴などを活用した自己給電型IoTデバイスなどへの応用に期待する。
名古屋大学未来材料・システム研究所のアジ・アドハ・スクマ研究員と大野雄高教授および、九州大学グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹教授らによる研究グループは2019年12月、一滴の水で5V以上の電圧を発電させることに成功したと発表した。
これまで、グラフェンを用いて同様の発電現象が報告されているが、その出力電圧は数十〜数百ミリボルトが限界であった。このため、製造現場などに設置されるIoT(モノのインターネット)デバイス向け電源として用いるには、出力電圧が十分ではなかったという。
研究グループは今回、二硫化モリブデンを用いた発電技術の開発に取り組んだ。ところが、従来の成膜方法では、硫化モリブデンを均一かつ広い面積に成長させることが極めて難しかったという。そこで成膜方法を工夫し、1原子レベルまで薄くした二硫化モリブデン膜を、プラスチックフィルム上へ均一かつ広範囲に成長させる技術を新たに開発した。
具体的には、原料となる酸化モリブデンが基板と向き合うよう設置し、均一に供給することにした。サファイア基板を用いることで品質も高めた。さらに、サファイア基板上に成長させた二硫化モリブデンをプラスチックフィルム上に転写する技術も新たに開発した。
従来は極めて薄い二硫化モリブデンの支持材料として、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)フィルムを用いていたため、大面積で転写するのが難しかったという。今回はポリスチレンフィルムを支持材料として用いた。これにより、面積が広い二硫化モリブデンの転写を容易に行うことが可能となった。
試作した発電装置は、プラスチックフィルム上に成膜をした二硫化モリブデンの両端に、電極を形成した構造となっている。この発電装置を45度に傾けて、表面に水滴を落とした。水滴が二硫化モリブデンの表面を滑っていく時に発電するという。
この時、水を1滴落とすごとに、5〜8Vの電圧がパルス状に発生した。さらに、3つの発電装置を直列に接続し、3滴の水を同時に落とすことで、15Vの電圧を発電させることにも成功した。
開発した発電装置は、自己給電型の雨量計や酸性雨モニター、水質センサーといったIoTデバイスなどへの応用を視野に入れている。プラスチックフィルム上に形成されているため、配管の内側曲面などに設置することも可能である。
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