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互換チップが次々と生まれる中国、半導体業界の新たな潮流製品分解で探るアジアの新トレンド(45)(2/3 ページ)

» 2020年01月28日 11時30分 公開

STM“本家”との比較

 図3に、STM32F030と■■32F030のチップ開封の比較を示す。このチップの案内には、はっきり「相互兼容製品STM32F030」と記載されている。

図3:Mavic Miniのコントローラー用マイコンは、STMicroelectronics「STM32シリーズ」の互換マイコンである 出典:テカナリエレポート(クリックで拡大)

 STM32F030は、採用事例も極めて多い製品だ。あらゆる分野に採用される、まさに汎用マイコンの一つである。Arm Cortex-M0コアを用いるコンパクトなマイコンで、シリコンを開封して顕微鏡で観察すると、「2011」の年号が刻印されている。つまり、約9年前に登場したチップなのだ。

 同社の180nmプロセス技術で製造されるローコストな製品で、シリコン面積も7mm2台と小さい。

 図3のシリコン写真は内部の回路がわかるように全ての配線層を取り除いたもの。チップの左側半分はメモリやアナログ回路、右側はロジック素子が並ぶデジタル回路で構成されている。互換チップ■■32F030はオリジナルよりも微細な130nmプロセスで製造されるので面積は、3mm2台とさらに小さい。

 小さいことはいくつかの利点がある。同じサイズのウエハーからのチップ取得数が増え(130nmの方が180nmよりも製造コストは若干高価だが)ローコストで製造できる。また、チップが小さくなることで内部信号の距離が短くなり、電力の削減や周波数アップあるいは電圧を下げるなどの性能効果をもたらす。事実、オリジナルのSTM32F030に比べて■■32F030の方が仕様比較では若干勝っている数字も存在する。

 こうした互換マイコンがDJIのコントローラーに使われているわけだ。こうした互換マイコンが徐々に広がりつつあることが、冒頭で述べた「もう一つの進化」である。

 なお、筆者は互換チップを否定するために本稿を執筆しているわけではない。「そのような事実があるだけ」という、現状報告を行っていると考えていただきたい。

 そもそもエレクトロニクス業界の技術は、真の意味でのオリジナルというのは少しで、互換やコピー、類似に満ちている。それらを拒絶したり否定したりするのは簡単だが、互換や類似は改善や改良の最短ルートの一つで、「明確な進化の側面も持っている」ことは否定できない。マイコンのようなシステムチップの互換を作るには、きちんとマイコンを理解し、開発して量産にこぎつけるという高い能力がなければ、できないことなのだ。

 ■■32F030は異なるプロセスで設計され、タイミングから機能まで異なる配置で設計されており、設計は、ほぼゼロから成されたものと思われる。

 なお、Mavic Miniのモーター制御用マイコンには、Armコアではなく、中国C-SKYのコアが採用されている。中国独自のCPUも採用されていることも見落としてはなるまい(今回はこの部分の詳細は述べないが)

互換チップは“成功の証”

 図4は、■■社ではない中国GigaDeviceの事例である。GigaDeviceはシリアルフラッシュメモリで非常に多くの採用事例を持つ、中国では最も採用が広がっている半導体メーカーの一つである。身近なところでは、2019年に発売され、今も爆発的に売れ続けているノイズキャンセラー付きワイヤレスイヤホンに採用されている(テカナリエレポートの363号に詳細を掲載)。

図4:GigaDevice社互換マイコンの広がり 出典:テカナリエレポート(クリックで拡大)

 GigaDeviceは、メモリ技術にArmコアやアナログ回路を付加して、STMicroelectronicsの「STM32F1シリーズ」や「STM32F4シリーズ」の互換マイコンを数年前からリリースし、今や非常に多くの製品に採用されている。

 互換チップが生まれることは、まさに汎用の証である! STMicroelectronicsのSTM32シリーズは事実上、Armマイコンのスタンダードとして活用されているからこそ互換チップが生まれている。

 「互換チップが生まれてこそ、そのチップは成功したと言える」と筆者は考えている。x86も、メモリ半導体も、多くの互換チップを生み出しながら成功してきた。そして、互換チップによって新たな市場が開拓され、ターゲット市場やアプリケーションはさらに拡大していくのである。

 STM32シリーズの話をするならば、やはりSTMicroelectronicsのの地道な努力と、そして一貫したArmマイコンの育成が多くの互換チップを生み出したのだと称賛したい。

 ルネサス エレクトロニクスやMicrochip Technologyなど“マイコンの覇者”は他にも多い。しかし今、2020年代にルネサスらの互換チップが生まれているかと言えばその様子はない。互換が生まれないとは、他社がそのアーキテクチャを広げてくれないことを意味する。

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